【第3回】中国マーケットをいかに攻略するか中堅・中小企業 逆境時の経営力(2/3 ページ)

» 2011年06月02日 08時00分 公開
[美谷昇一郎,日本総合研究所]

日本の常識や成功体験を払拭すること

 海外市場でビジネスを展開していくためには、日本での常識や成功体験をいったん取り去り、ゼロベースで現地のニーズやライフスタイルをくみ取った上で、現地での製品開発や販売戦略を組み立てる必要がある。ある花瓶メーカーが中国で花瓶の販売を開始した際、当初は花器売り場に陳列していたが、まったく販売が伸びなかった。そこで中国人を集めたグループインタビューを実施したところ、参加した中国人全員が美しいコップだと思ったというエピソードがある。

 一般的に中国やインドといった新興国では、所得格差や文化的背景などによって国民の多様性に幅がある。こうした市場では、セグメントごとの違いが大きい。従って、販売したい製品によって、さまざまな軸(所得水準、性別、学歴、年齢、家族構成、戸籍など)に基づくセグメント分類が重要であり、そのセグメントの中で何をメインターゲットとするかによって、製品のとらえられ方や売れ行きに大きく差が出る。

 適格なセグメンテーションにより、製品の良さを理解したファンが増えてくれば、彼らが自然と口コミで評判を広げてくれることも期待できる。信頼性の高い消費者情報が少ない新興国マーケットでは、広告費を掛けられない分、口コミを上手に活用したマーケティングの有効性は高い。

 日本の常識をそのまま持ち込んでも必ずしもうまくいかないのは、システム面でも同じだ。例えば、中国で経理システムを導入する場合、現地で広く使用されているパッケージソフト製品の活用が推奨される。大企業やJ-SOX対応が必要な企業においては、グローバル対応のERP会計モジュールが有力な選択肢となるが、中堅・中小企業にとっては、導入メリットや政府(税務当局)への手続きの労力を考えれば、現地のパッケージソフトを活用し、必要な情報のみを簡単な書式で提供してもらう方がリスクが少ない。

 現地で使用する業務系の基幹システムについても、同じことがいえる。日本人が日本での成功体験から精緻に仕様決めを行い、機能が豊富な基幹システムを構築しても、結果的には独り善がりのシステムが出来上がり、現地で活用できないことが少なくない。そのリスクを考えれば、業務系の基幹システムについても、現地スタッフが使い慣れた現地のパッケージ・ソフトを活用する方がはるかにスムーズである。

現地スタッフとの丁寧なコミュニケーションを心掛けること

 大企業では、駐在候補者に対して事前に語学研修の支援があったり、社内に専任の外国人社員がいたりすることが多い。しかし、中堅・中小企業では中国語などの現地語はもちろん、英語もほとんど話せない社員が突然海外へ派遣されることがある。そうすると、日本人駐在員と現地スタッフとのコミュニケーション手段は通訳を介してのみになる。現地人通訳の多くは、確かに日本語は聞き取れるし、話すこともできるが、日本語の微妙なニュアンスや、言外に含む含意などはまず理解できないと考えるのが無難である。

 日本人駐在員は“きちんと”伝えたつもりで、通訳も“きちんと”翻訳したつもりだが、中国人スタッフからのアウトプットは期待とまるで異なるものになってしまう。しかし、多くの日本人駐在員は「うちの中国人スタッフはできが悪い」とか「きちんと言うことを聞かないで勝手な判断をする」といって中国人を責めてしまうケースを何度も見てきた。

 実際には、日本人と同じ調子で通訳に指示を出してしまい、考えなどを的確に伝えきれていないことの方が問題なのである。できればたどたどしい中国語でもよいので話せることが好ましいが、通訳を介する場合でも一語一語明確に分かりやすい日本語で伝えるように努めるべきである。

現地人や現地文化に対する謙虚な気持ちを忘れないこと

 新興国の平均所得水準と比較すると、圧倒的に日本人駐在員の方が高い水準にあり、派遣される国によっては日本での生活レベルを大きく超える、恵まれた駐在員生活を享受できる場合がある。日本国内では目立った貧富の格差を肌で感じる場面が少ないため、現地の一般的な生活レベルとの違いにショックを受けることがある。

 一部には、誤解して現地の人たちや文化を低く見てしまうことがある。以前、中国の日本料理店で食事をしていた際、日本人客が中国人の従業員に日本ではあり得ないような厳しい口調で叱り付けている様子を目にしたことがある。このような感覚を持っていたら海外でのビジネスを現地スタッフと一緒にうまく切り回していけるはずもない。

 海外でビジネスを検討する上では、現地の人たちにより良い生活を提案し、その価値を認められた結果として利益が返ってくるという、謙虚な気持ちを忘れてはいけない。

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