中小企業の活力を高めるIT活用の潮流 豊富な事例を紹介

アナログ業務しかなかった職場をいかに変えるか 大宮工機中小企業の活力を高めるIT活用の潮流(2/2 ページ)

» 2011年06月06日 12時00分 公開
[伏見学,ITmedia]
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すべてがアナログ業務だった

 上述のような取り組みを見ると、中小企業の中にあって、大宮工機はIT活用に対して積極的だという印象を持つかもしれない。実は、宮城専務が1997年に入社するまで同社にはPCが1台もなく、完全に「非IT化」された業務しか存在しなかった。

 例えば、宮城専務が担当していた経理業務に関してもすべて手書きの作業だったので、顧客の請求書に少しでも修正が入ったり、途中に一文を追加したいという要求があったりすると、始めからからやり直しになる。「月末の会計処理は夜遅くまで残業することが常態化していた」と宮城専務は振り返る。

 この状況に危機感を抱いた宮城専務は、すぐさまPCおよび会計ソフトの導入を決める。当時、PCは高価だったため、当初は周囲から反発もあったが、ITによる業務効率化の重要性を説いて納得を得た。同時にマイクロソフトのデータベースソフト「Microsoft Access」を使って、仕入れと売り上げを管理する請求書システムを自作で構築した。「市販ソフトも検討したがレンタル機材という当社の業態に合ったものはなかった。カスタマイズでシステムを作ってもらうと数百万円もかかってしまうため自作を選択した」と宮城専務は話す。

 続いて採用したのは給与計算ソフトである。これまでは経理担当者が給与計算を手作業で行っていたが、残業や休日出勤の計算が複雑だったため、毎月同じ金額を上乗せするという“どんぶり勘定”で手当てを支払っていた。給与計算ソフトを導入したことで、社員が納得する正確な給与を提示できるようになった。宮城専務はこれらのソフトを入社して2年以内に整備した。

 さらに、インターネットバンキングを活用し、取引先からの支払い確認を簡便化した。同社は数百件に上る取引があるため、毎日のように振り込みが行われる。今までは経理担当者が銀行に訪れて記帳しないと支払い状況が確認できなかったが、こうした作業がすべて社内のPCで行えるようになった。

CTIシステム導入で顧客対応が迅速に

 次にてこ入れしたのが、顧客対応業務の効率化である。これまで同社では、電話で機材レンタルの注文を受けると、まずは事務担当者が注文内容をメモに記し、それを配送担当者に渡す。配送担当者はそのメモを配送用ノートに書き写し、配達員に指示する。そして、配達員は書かれた注文内容を基に伝票を作成し、ようやく機材の配達に取り掛かることができた。当然、この間の作業はすべて紙ベースで行われていたため、受注から配達まで多くの時間と手間がかかっていた。

 こうしたアナログ業務をデジタル業務に変換すべく、同社はCTI(電話やFAXをコンピュータシステムに統合する技術)システムを2006年に導入。これによって、注文の電話を受けると、あらかじめシステムに登録してある顧客情報(会社名、住所、電話番号など)が事務担当者のPC画面に表示され、それをクリックすると注文画面に遷移し、速やかに受注内容を入力できるようになった。入力完了ボタンを押すと伝票が印刷されるので、配達員はそれを持ってすぐに配達に行くことが可能になった。「CTIシステムを導入したことで、(受注から配達までの)2〜3工程が省略できた。誤発注などのミスも格段に減った」と宮城専務は力を込める。

 CTIシステムは、今では同社にとって欠くことのできない基盤だが、実は導入した当初は、伝票を印刷する機能がなかったため、ほとんど社員に使ってもらえなかったという。「いくらIT化を進めても、便利でなければユーザーは利用しない。逆にユーザーが使い勝手が良いと感じてくれれば、黙っていても改善案が出てくるのだ」と宮城専務は述べる。

最小限のITコストで効果を出す

 そのほか、業務効率化に向けたIT活用として、同社では富士ゼロックスの文書管理システム「DocuWorks」と、auのGPS(全地球測位システム)携帯電話と連動したGIS(地理情報システム)を採用した。

本社にいる配送担当者のデスク。3台のPCモニタで業務を管理している 本社にいる配送担当者のデスク。3台のPCモニタで業務を管理している

 文書管理システムのメリットついては、機材のカタログや、トラックなどの車両をレンタルする際に必要な車検証、保険証などをすべてデジタルデータとして管理することで、素早く検索し、必要なときにすぐ取り出せるようにした。加えて、これまでキャビネットに入れて管理していた紙資料を大幅に処分するなど、社内のペーパーレス化にもつながった。

 GISに関しては、配達員の位置情報が本社でリアルタイムに把握できるようになるため、配達員が“ムダなく”動けるようになった。以前は、配達を終えた配達員が本社にいる配送担当者に電話をかけて、そのまま帰社して良いのか、あるいは、別の現場に立ち寄って機材を引き取る必要があるかを、毎回確認していた。「電話だと必ず会社に連絡を受ける人間が必要で、お互いに数分は時間を取られていた」と宮城専務は話す。

 GISの導入によって、現在は、配達員が携帯電話のボタンを押すと、位置情報を示したアイコンが配送担当者のPC上の地図に表示される。その場所を確認して、配達員が効率的に動けるような指示をすぐに出せるようになった。

「ITを使うことで仕事がますます効率化し、その結果、より高度な業務に社員が集中できるようにしたい。ITはそのための道具なのだ」(宮城専務)

 大宮工機の注目すべきところは、積極的にITに対する投資を行っているにもかかわらず、コストを抑えて、あるいは無償のサービスをうまく活用して、業務の効率化を図っている点である。これは経営リソースが限られている中小企業にとって、大いに参考となるはずだ。

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