【最終回】いかに危機情報をとりまとめ、活用していくか災害発生! 組織の危機管理は(1/2 ページ)

最終回では、危機対応時に集めた情報を、いかに見える化し、利用していくかについて検討していく。

» 2011年06月10日 08時00分 公開
[牧紀男,京都大学]

 前回は、危機対応にかかわる全ての関係者が危機対応センター(EOC)に一堂に会すことで「状況把握」と「資源配置」という2種類の情報収集が可能になると説明した。最終回となる今回は、収集した情報を、どのように処理し、見える化し、利用していくかについて解説する。

 日本語の「情報」という言葉には、InformationとIntelligenceという2つの意味が含まれている。自衛隊のように危機対応を専門とする機関では、Informationを「情報資料」、Intelligenceを「情報」と呼び、この2つの言葉を厳密に使い分ける。

 Informationとは生の情報であり、その真偽の確認、分析が行われて初めてIntelligenceとなる(図1)。危機対応時には、真偽が未確認の情報、場所、時間、発信者が定かではない不完全な情報資料がたくさん入ってくる。こうしたInformationに基づいて危機対応を行うことは誤った判断を下す可能性がある。不完全なInformationをIntelligenceにするための作業が危機対応における情報マネジメントを行う上で不可欠となる。

 Intelligence化された情報が危機対応センターに伝達、とりまとめられ、意思決定のための判断基準として利用される。さらに文書管理班により保存されるのだ。危機対応センターを顧客からの電話受付や苦情処理窓口のように考えている組織も存在するが、危機対応センターで取り扱われる情報は、あくまでもIntelligenceであり、顧客からの直接の電話などについては、別途、情報センターを立ち上げてそこで処理する必要がある。

図1 情報資料(Information)の処理手順 図1 情報資料(Information)の処理手順

欲しい情報を要求せよ

 危機対応にかかわる情報処理は、こういった情報が必要であるという「情報要求」を出すことから始まる。そうした情報処理の専門機関である米国中央情報局(CIA)では、「情報要求 Planning and Direction」→「情報収集 Collection」→「情報処理 Processing」→「情報分析・生成 Analysis and Production」→「情報公開 Dissemination」という危機管理にかかわる情報プロセスの流れを「インテリジェンス・サイクル Intelligence Cycle」と呼んでいる(図2)

図2 インテリジェンス・サイクル(Intelligence Cycle)(出典:CIA) 図2 インテリジェンス・サイクル(Intelligence Cycle)(出典:CIA)

 危機対応に必要な情報とは何か。どのような原因で危機が発生しているのか(例:地震の規模など)という(1)ハザードの情報、そのハザードにより組織の内部や関係する組織にどれだけの被害が発生しているのかという(2)被害情報、発生した被害に対してどのような対応を行っているのかという(3)対応状況、今後どのような方針で危機対処するのかという(4)対処方針という4つの情報が必要になる。この4つの情報を収集したいという要求を関係機関、危機対応要員に出し、情報のとりまとめを行うことが不可欠になる。

 行政機関においても同様の方針で情報の収集、とりまとめが行われており、若干順番は異なるが、東日本大震災についての(1)地震の概況、(2)政府の主な対応、(3)被害状況など、(4)被災者支援の状況など、といった情報が毎日更新・提供されている 。しかしながら、危機対応における優先課題は何で、その課題をいつまでに解決するのかという対処方針については明確にされていない場合が多い。

 危機対応センターで作成された「とりまとめ報」(図3)は、全ての危機対応にかかわる情報を網羅的に収集するという意味で重要だが、東日本大震災についての政府のとりまとめ報(2011年5月13日17:00現在)を見ると、全体で97ページにもわたる大作となっており、一覧性に欠ける。今どこまで危機対応が進んでおり、どの地域で何が問題で、今後どういった問題が発生することが予想されるのかということについて、直感的に理解できる形式に危機対応の状況を見える化することが必要になる。

図3 政府のとりまとめ報 図3 政府のとりまとめ報

 2005年に米国で発生したハリケーン・カトリーナ災害時に、ニューオリンズ市の危機対応センターでは、表形式に、危機対応状況のとりまとめが行われていた(図4)。とりまとめ報全体は、その日の気象状況から始まり、全体で79ページにも及ぶが、個々の対応を、とりまとめた表を作成することにより、危機対応全体の進ちょく状況を把握できる。この表では「行」を見ていくと、地域ごとの進捗状況を把握、「列」では下水、上水道といった個々の対応課題を把握することが可能となっている。

図4 危機対応の「見える化」(出典:2005年ハリケーン・カトリーナ災害時のニューオリンズ市危機対応センター資料) 図4 危機対応の「見える化」(出典:2005年ハリケーン・カトリーナ災害時のニューオリンズ市危機対応センター資料)
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