【最終回】いかに危機情報をとりまとめ、活用していくか災害発生! 組織の危機管理は(2/2 ページ)

» 2011年06月10日 08時00分 公開
[牧紀男,京都大学]
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危機対応状況の見える化

 こうした危機対応状況の見える化手法は、東日本大震災の危機対応においても、いくつかの自治体でも利用されている。この手法は行政機関だけでなく、企業が危機対応を進める上でも利用可能であり、危機対応の見える化を図る上で有効に機能すると考えられる。図5では、医療のトリアージで利用されるカラースキームが利用されており、「黒:情報なし」、「赤:未復旧・未対応」、「黄:一部復旧、一部対応済」、「緑:復旧」を意味する。

 危機対応の見える化を行う場合、こうした表に加えて、情報の地図化も有効な手段である。京都大学防災研究所を中心とするグループがEMT(Emergency Mapping Team)を立ち上げ、さまざまな機関が発信する被害、危機対応状況について地図を作成するプロジェクトを実施している 。

 見える化された情報に基づき危機対応計画(Incident Action Plan, IAP)が作成される。この計画が対処方針といえる。日本の危機対応情報において対処方針が示されていないのは、連載第1回で説明した目標達成型(Management by Objective)の危機対応が行われておらず、危機対応計画が作成されていないことによる。繰り返しになるが、関係機関、関係者にいつ復旧するのかという情報を発信することは重要である。

図5 危機対応の「見える化」ツール 図5 危機対応の「見える化」ツール

危機対応時の資料は捨てるな!

 活動期間(Operational Period)ごとにとりまとめ報や危機対応計画を策定し、計画に基づき対応を実施するというプロセスを危機事態が沈静化するまで継続する。危機対応の沈静化とは、危機対応の見える化の表全ての項目が緑になることを意味する。ひとたび危機対応を実施すると、情報資料、とりまとめ報、そして危機対応計画が大量に生成される。危機対応が終わると対応に利用した資料は全て廃棄されてしまうことが多いが、冒頭で説明したように、文書管理班を設け、整理、保存しておくことが重要である。さらには、危機対応マニュアルの見直しのため、時系列的な対応記録、危機対応活動の検証結果、マスコミ報道といった内容から構成されるアフター・アクション・レポートを作成する必要がある。

 資料を残しておく意味はレポートの作成にのみ役立つのではなく、危機対応訓練を行う際に非常に重要な資料となるからだ。通常、危機対応訓練は企画者が危機事案のシナリオを作成し、そのシナリオに従って訓練が実施される。このシナリオはあくまでも人間が考えたものであり実際の危機対応の状況を完全に再現することはできない。しかしながら、実際に危機対応を実施した時の情報を、いつ情報が入ってきたのかというタイムスタンプと共に整理、保存しておくと、状況付与シナリオとして利用することが可能になる。この資料を利用した訓練を行うことで、危機対応を経験していない人にも実際の危機対応の状況について追体験させることができる(図6)。筆者らのグループは、危機対応訓練において、実際の危機対応時に入ってきた情報を利用して、実時間の2〜3倍のスピードで状況付与を行い、情報のとりまとめを行うという訓練を実施している。

図6 アフターアクションリポートの作成と訓練 図6 アフターアクションリポートの作成と訓練

 これまで3回にわたって、危機対応時の情報処理の考え方、情報共有を可能にする危機対応センターの空間設計、情報のとりまとめ方といった内容を解説してきた。危機対応の要諦は、情報処理にある。これまで述べてきたことが、各組織の危機対応能力の向上に少しでも寄与することを望んでいる。

著者プロフィール

牧紀男(まき のりお)

京都大学防災研究所巨大災害研究センター 准教授

1968年生まれ。1997年に京都大学大学院工学研究科で博士(工学)を取得。奈良県、京都府において地震防災戦略計画の策定、2004年新潟県中越地震で被害を受けた小千谷市の復興計画策定に関わる。専門は、ステークホルダー参画型防災戦略計画、災害復興計画、標準的な危機管理システム、すまいの災害誌。著書「組織の危機管理入門―リスクにどう立ち向えばいいのか(京大人気講義シリーズ)」(丸善)、「はじめて学ぶ都市計画」(市ヶ谷出版)他。



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