アジア新興国におけるメディア活用のアプローチ――マスとソーシャルの融合化・一体化ソーシャルマーケティング新時代(2/3 ページ)

» 2011年06月14日 07時45分 公開
[岩渕匡敦, 辻佳子,デロイト トーマツ コンサルティング]

5つの特性と危険性を考慮した融合化・一体化

 それでは、マスメディアとソーシャルメディアを融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動とは、一体どのようなものであろうか。

 まず、前提として思い出していただきたいことは、前回の記事及び本稿の冒頭で取り上げたソーシャルメディアが持つ5つの特性と危険性である。この5つは、先述のとおり、マスメディアを用いた活動との対比的な観点、あるいはマスメディアとの比較や違いから導いたものであるため、逆説的にはマスメディアの特徴を示しているとも言え、両者を融合化・一体化する活動を考えるにあたっては、この差が重要な要素となる。

 ソーシャルメディアの特性を生かし、危険性を抑制し排除するためには、これらの要素におけるマスメディアの活用を一体的に考えなければならないということである。逆に、マスメディアの特徴を生かし、危険性を抑制し排除するためには、ソーシャルメディアでその点を補うことを考える。

 ときどき、テレビCMの表現が一部の人々に不快感を与えてしまい、打ち切りとなるようなことがある。仮に、テレビCMとソーシャルメディア上の活動を連携させていれば、それを不快に思う人々とのやり取り、企業としてのCMの意図の説明、ソーシャルメディア上での改善策の検討、具体的なアクションの決定、その後のフォローの実施等も可能であり、そのプロセスを通じて、当該企業に対する信頼関係が養われることになるかもしれない。不意にCMが打ち切られ、何の説明もない状態よりも、はるかによいことは疑いようがないだろう。マスメディアとソーシャルメディアを融合化・一体化においては、特性と危険性を補完し合う方策を考えることが第一歩となるだろう。

AIDMAのプロセスに応じた融合化・一体化

 次に、これらを融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動を考える際には、メディアの種類や媒体の種類に留意する前に、そもそもの目的に立ち返る必要があるだろう。企業は、メディアを通じて何を達するのか。

 企業がメディアを通じて行う活動はいろいろな目的を帯びているが、最も単純なモデルを考えてみると、収益の最大化、すなわち商品やサービス、企業そのものの認知度を広告宣伝によって高め、売上を伸ばし、収益をより大きくすることを目的としたモデルとなる。

 この最も単純なモデルで考えてみると、例えば、「AIDMA」などの消費者の購買心理のプロセスをいかに効率的・合理的に後押しできるかということが、マスメディアとソーシャルメディアの融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動のキー要素となる。

 AIDMAでは、消費者の購買心理のプロセスをAttention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)と定義している。どのプロセスでどういったメディアをどのように活用するのかによって、これらのプロセスのスループットは変わってくる。つまり、メディアミックスを最適化することによって、スループットが向上し、収益の最大化につながる。

 では、具体的に、マスメディアとソーシャルメディアをどのように各プロセスで組み合わせ、全体としての融合化・一体化を図るのか。これには、絶対的な法則やルールはなく、対象となる商品やサービスによっても大きく異なることに留意が必要である。

 例えば、最先端の電子機器のような商品の場合であれば、まずAttentionの段階でマスメディアの広告宣伝と合せて、Facebookを用いたキャンペーンを実施するのが有効かもしれない。InterestやDesire、Memoryの段階で、消費者自身が積極的にこの商品について語るように、この商品を語ること自体がその発信者の高評価につながるようなイメージ戦略を打ち出すことも必要だろう。そうなると、より具体的な機能性やファッション性を示すために、消費者自身の投稿を消費者同士で評価し合うようなソーシャルメディアの活用が有効かもしれない。Actionの段階では、その段階に至っていない消費者の背中を押すことを狙って、購買後の感想や印象を、マスメディアを通じて広報するのが有効かもしれない。

 では、女性の生理用品のような商品や美容整形のようなサービス、消費者金融のサービスなどはどうか。Attentionの段階で、マスメディアの広告宣伝は商品やサービスを認知させる上で重要となるが、Facebookを用いたキャンペーンをしても、おそらく積極的に参加する消費者は多くないだろう。これは、この商品やサービスについて語ったり評価したりすることによって、発信者自身の評価や評判を下げてしまう恐れがあると考えられるためである。こうした点から、InterestやDesire、Memoryの段階では、特にこの商品について活発な議論がなされていなくても、匿名での書き込みによる使用感の感想さえ見ることができれば、十分かもしれない。そして、Actionの段階では、購買後の感想や印象を親しい友人に伝えるだけで十分な口コミ効果があるのかもしれない。

 このように、商品やサービスの特性を踏まえつつ、AIDMAのプロセスの中で、どのようにメディアをミックスさせていくかが重要になるだろう。ここで一点留意しなければならないのは、商品やサービスの特性に地域性を加味する必要がある点である。購買心理の各プロセスの中で、どのような情報やメディアを重視して心理変化していくかは、その国の宗教や文化等の背景によって異なる。アジア新興国には、言うまでもなく、日本や欧米諸国とは異なる背景が存在し、AIDMAのプロセスに与える諸条件も自ずと異なるものである。この点を事前に把握してメディアミックスに反映する、あるいはこの点を把握するためにソーシャルメディアを活用して最適なメディアミックスを模索するといった考え方が必要であろう。

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