【第2回】経営課題とITサービス活用方法まるごと! 中堅・中小企業とIT経営(1/2 ページ)

企業が経営課題を解決するときに、いかにITを活用すればいいのか、今回はそのポイントを解説する。

» 2011年07月01日 08時30分 公開
[春日丈実,三菱UFJリサーチ&コンサルティング]

中堅・中小企業の経営課題

 前回は、ITサービスの選び方についてお伝えした。今回は、企業が経営課題を解決するときのIT活用のポイントを整理する。

 東京商工会議所が定期的に実施するアンケート(図表1-1参照)によれば、中小企業における「経営上の問題点」としては、「需要低迷」「競合激化」「価格低下」「原材料の上昇」「従業員確保難」が上位5つである。このアンケートは2005年にも実施されているが、昨今の市況を受けて原材料の不足を挙げる企業が増えているのが特徴的である。原材料費がアップしても、販売価格にうまく転嫁できていない中堅・中小企業の姿が見られる。

 また「今後重視する経営課題」(図表1-2参照)については、「人材の確保・育成」「マーケティング、販路開拓」「新商品開発」「後継者育成」「新分野への進出」がトップ5である。この傾向は2005年からほとんど変わっておらず、企業にとっては定番の経営課題である。特に、人材育成に関する経営課題が上位にランクされている。

 前回も述べたが、ITサービスを分類する上では、攻めと守りの軸で考えるとよい。この軸は企業の経営課題についても使うことができる。攻めの経営課題としては、「売上アップ」「新分野への進出」「新商品の開発」などであろうか。守りの経営課題としては、「コストダウン」「商品・サービスラインの絞込み」「セキュリティ・コンプライアンス対応」などが挙げられる。企業経営者や営業部門としては攻めの経営課題に取り組みたいが、最近の経営環境から守りの課題が増えている。その中でセキュリティに関してはITが活用できる部分が多いのではないだろうか。

図表1-1 中堅・中小企業の「経営上の問題点」(出典:「中小企業の経営課題に関するアンケート」、2008年4月、東京商工会議所) 図表1-1 中堅・中小企業の「経営上の問題点」(出典:「中小企業の経営課題に関するアンケート」、2008年4月、東京商工会議所)

図表1-2 中堅・中小企業の「今後重視する経営課題」(出典:「中小企業の経営課題に関するアンケート」、2008年4月、東京商工会議所) 図表1-2 中堅・中小企業の「今後重視する経営課題」(出典:「中小企業の経営課題に関するアンケート」、2008年4月、東京商工会議所)

ITでできること

 コンピューターは以前、電子計算機と呼ばれていた。会社によっては、情報システム部門をいまだ電子計算機室(部)としているところもある。このことから分かるように、コンピューターは計算を得意とするものである。最近、企業経営にITは不可欠であり、ITがなければ企業経営は成り立たないと言われているが、ITのみで企業経営の全てができるわけではない。ITには得意なこととそうでないことがあり、ITを活用する側にそういう意識がないと、システム会社に言われるがままITサービスを導入することになりかねない。そこで、ITを活用することで効果があるものと、そうでないものをまとめた(図表2-1参照)

図表2-1 IT活用方法と具体例(◎:IT導入の効果大、積極的にIT活用を検討すべき、○:IT導入効果あるものの、ITのみでは効果限定的、△:ITの使い方、効果を要検討、×:ITを意思決定の補助とすることは必要であるが、最終的には人間が判断すべき) 図表2-1 IT活用方法と具体例(◎:IT導入の効果大、積極的にIT活用を検討すべき、○:IT導入効果あるものの、ITのみでは効果限定的、△:ITの使い方、効果を要検討、×:ITを意思決定の補助とすることは必要であるが、最終的には人間が判断すべき)

 効果があるのは、定量データを取り扱う業務だろう。「各種データの収集」は一番得意とするところだ。売上データや出荷・在庫データを収集したり原価計算をしたりするには、ITをより積極的に活用すべきである。これらの業務においては既にほとんどの企業で、ITを活用していると思われる。しかし多くの企業では、CSVファイル などにローデータ を吐き出して、表計算ソフト(MS-EXCELなど)やデータベースソフト(MS-ACCESSなど)で加工をしているのではないだろうか。社内の業務プロセスを見直し、これらに人手をかけているのであれば、積極的にITを活用すべきである。そのほか、「各種データの加工」もIT導入の効果が大きいといえる。

 定性データの取り扱い業務はどうか。「セキュリティ・コンプライアンス対応」におけるIT活用は一定の効果があるのではないだろうか。情報漏えいは企業にとって大きな経営課題であり、各社から情報セキュリティに対応したITサービスは数多く出ている。ただ、会社としてのルールや運用徹底が重要であり、IT導入をすれば解決というものでもない。

 次に「各種データの分析」だが、ここでは、各種データや加工されたデータを元に経営者もしくは担当者が分析や判断することを想定している。データの収集や加工に対するIT導入効果は高いといえるが、注意も必要だ。

 例えば、商品別利益率を顧客別に加工したデータがあるとする。これを経営者や担当者が見て、「この顧客は他社に比べて利益率が低くなっている」というような分析をするのは、ITを活用するとともに、何らかの分析的視点が必要になる。単に分析レポートを作成するだけでは新しい発見はないのである。

 「情報の共有化」についてもIT活用がよく叫ばれている。IT導入しただけでは効果は限定的であるし、場合によっては効率が落ちてしまうこともある。社内ポータルや社内掲示板、ファイル共有などはよく聞くが、これらを何のために導入するのか、効果はどういうものなのかをよく検討する必要がある。

 例えば、「ワークフロー」のシステムは「上司が出張中でも携帯電話で簡単に承認できる」といったうたい文句があるが、自社の業務プロセスを十分検討せずにシステムを導入した場合、紙の書類であれば代理の人が何の問題もなく処理できていたものが、システムになると上司が不在のときに承認をしないために業務が滞ったり、システムゆえに、厳密なルールに従わないとシステムが動かなかったりといったことが起こり得る。

 さらに、中堅・中小企業の今後重視する経営課題として「人材の確保・育成」があったが、IT活用するという点ではeラーニングが想定される。多くの企業で人材育成のためにeラーニングを導入している。コンテンツは自社で準備するが、仕組み(システム)は外部のASPサービス を使う場合が多い。eラーニングのコンテンツを整理することでノウハウの整理になり、従業員は自分のペースで社内のみならず社外からも利用できる。

 「定性情報の収集」については、ITの活用を慎重に検討したい。例えば、顧客の声を把握する場合、顧客からどのようにデータを集めるのか。Webアンケートのように直接システムに入力する場合もあるし、紙に記入してもらったものを誰かがシステムに入力する場合もある。この点をよく考えず、処理の段階までシステム会社の説明資料に飛びつくのだけは避けたいところだ。

 最後に「意思決定」である。意思決定においてはITはあくまで補助的なものであり、経営者や担当者が決めるべきものである。データの収集・加工・分析を基に最終的には人間が目標を設定しなければならない、意思決定を支援するITサービスも存在はするものの、一般的には使う側にそれなりのスキルを求められる。

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