“老舗”ERPにみるグローバル化の理想と現実Weekly Memo

富士通と日本オラクルが先週、相次いでERPの新たな取り組みを発表した。いずれも導入実績が豊富な“老舗”ブランド商品だが、新展開ではそれぞれに思惑があるようだ。

» 2011年07月19日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

「GLOVIA」「JD Edwards」に新たな動き

 「GLOVIA」「JD Edwards」といえば、いずれも導入実績が豊富なERPの“老舗”ブランド商品である。先週、この2つのブランド商品において、相次いで新たな取り組みが発表された。

 まずGLOVIAについては、提供元である富士通と富士通マーケティング(FJM)が7月12日、大企業向けを中心としたソフトウェアパッケージ「GLOVIA SUMMIT GM」を発表した。

 GLOVIA SUMMITは1997年の発売以来、富士通の経理部門が実践してきたノウハウをベースに、グループ経営管理のニーズを踏まえながら機能強化を続け、今年3月末時点で約1800サイトの導入実績がある。GMはその最新版で、GLOVIA SUMMITとしてのメジャーバージョンアップは6年ぶりとなる。

 両社の説明によると、GMは従来の会計システムの枠を超えてグローバルに点在するグループ企業のあらゆる企業活動情報を統合。月間1億件の情報を一元管理し、高速処理による利活用で、グループ全体における実績、予実管理、将来予測まで可視化できるのが特徴だという。

 これにより、会計業務の効率化に加え、タイムリーな経営判断を正確かつ迅速に行うことができるとしている。また、IFRS(国際会計基準)対応では、既存の業務システムのデータから複数基準の仕訳を自動生成することにより、業務負荷やシステムへの影響を抑え、日本の税制や商習慣を踏まえた対応を実現するという。

 ちなみに、GMをクラウドサービスとして提供するつもりはあるのかと聞いたところ、「富士通およびFJMからパブリッククラウドとして提供することは、今のところ考えていない。ただ、顧客企業がプライベートクラウド化する場合は、その構築・運用を支援させていただく」(渡辺雅彦FJMソリューション事業本部副本部長)とのことだった。

 現在、GLOVIA製品のクラウドサービス化については、FJMが中小企業向けに「GLOVIA smart きらら」を提供している。

 記者会見に臨む富士通の小野恊 民需ビジネス推進本部長代理(左)と富士通マーケティングの渡辺雅彦ソリューション事業本部副本部長 記者会見に臨む富士通の小野恊 民需ビジネス推進本部長代理(左)と富士通マーケティングの渡辺雅彦ソリューション事業本部副本部長

果たしてグローバルERPが主流になるのか

 一方、JD Edwardsについては、提供元の日本オラクルが7月11日、中堅企業向けを中心としたソフトウェアパッケージ「JD Edwards EnterpriseOne」をクラウドサービスとして提供すると発表した。

 JD Edwards EnterpriseOneは1977年の発売以来、世界100カ国以上の企業で導入されてきたことから、中堅企業向けのグローバルERPの代表格と目されている。グローバルERPを利用すれば、企業はその同一システムでグローバル拠点をつなぐ運用ができ、現地法人ごとに個別のERPを導入せずに済むようになる。

 新サービスは、年商100億円以上の企業向けに米Oracleのクラウドサービス「Oracle On Demand」を活用したサービスを提供する一方、年商100億円未満の企業向けにはパートナーよりSaaS型のサービスを順次提供していくというものだ。

 これによって、年商100億円以上の企業にとっては、自社導入と比べてシステムの構築・展開スピードが向上するとともに、運用管理コストの平準化も図れるという。一方、年商100億円未満の企業にとっては、SaaSによる従量課金で提供されることから、初期費用を抑えつつ、実績のあるグローバルERPを活用することができるとしている。

 同社がここにきて、新サービスによって年商100億円規模の企業をメインターゲットにしたのは、同規模の企業にもグローバル視点での経営が求められるようになり、グローバルERPの必要性が高まってきたからだという。そうしたニーズに迅速に応えるため、クラウドサービスでの提供に踏み切った格好だ。

 さて、このように先週発表された2つの“老舗”ブランドERPにおける新たな取り組みをみると、「クラウドサービス」と「グローバル」という2つのキーワードが浮かび上がってくる。クラウドサービスでは今回、JD Edwardsが本格対応したことで、国内の中堅企業向けERP市場はますます激戦区となりそうだ。

 一方、グローバルという観点で興味深いのは、先にも触れた「グローバルERPを利用すれば、企業はその同一システムでグローバル拠点をつなぐ運用ができ、現地法人ごとに個別のERPを導入せずに済む」というニーズが主流になってくるのかどうかだ。

 この点について、富士通の小野恊 民需ビジネス推進本部長代理がGLOVIA SUMMIT GMの発表会見でこう語っていた。

 「富士通は大企業向けのERPとしてGLOVIA SUMMITを展開しているが、グローバルERPとしてSAPやOracleの製品を求められる顧客にもきちんと対応している。企業にとって理想的なのはグローバルでの同一システムの利用かもしれないが、現実的な顧客ニーズは依然として国ごとのきめ細かいソリューションを求められることが多い。GLOVIAが、日本のERP市場で高いシェアを維持し続けているのがその証左だ」

 老舗”ブランドの誇りがチラリと覗いたコメントだが、富士通とFJMが今回発表したGLOVIA SUMMIT GMは、日本企業向けが中心とはいえ、「月間1億件の情報の一元管理」に代表される器の大きさはグローバル展開を強く志向したものと見て取れる。

 ERP市場におけるグローバル化の理想と現実の構図は、今後どのように変化していくのか。そこにクラウド化はどのようなインパクトをもたらすのか。注目しておきたい。

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