クラウドで変わる事務機メーカーとITベンダーの協業の構図Weekly Memo

キヤノンと富士通が先週発表したクラウド事業での協業は、従来の事務機メーカーとITベンダーの協業の構図が、クラウドで変化する可能性を示唆したものともいえそうだ。

» 2011年08月08日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

キヤノンと富士通のクラウド協業の背景

 キヤノンと富士通が8月3日に発表したクラウド事業での協業は、キヤノンが富士通のデータセンターを使ってドキュメント管理などのオフィス向けクラウドサービスをグローバル展開するとともに、富士通もキヤノンのサービスを販売するというのが骨子だ。

 具体的には、キヤノンが7月13日に発表した自社のクラウドサービス基盤「Canon Business Imaging Online」を、富士通がクラウド基盤としてグローバル展開している「FGCP/S5」から提供する。つまり、キヤノンのPaaS/SaaSが富士通のIaaSに載る形だ。

 これにより、キヤノンは自社のクラウドサービス基盤の品質や堅牢性を強化するとともに、富士通の販売力も活用して国内外で事業拡大を図っていく。

 一方、富士通はキヤノンのクラウドサービス基盤を利用する顧客を取り込めるようになり、自社のクラウドサービスとドキュメント関連技術に強みを持つキヤノンのサービスを連携させることで活用領域を一層広げていく構えだ。

 両社はこれまで、インターネットを利用した複合機やプリンタの遠隔保守サービス、キヤノン製品のライセンス認証管理システムなど、さまざまなシステムの構築・運用において協業し、協力体制を築いてきたという。

 2010年2月には、複合機やIT機器の運用管理における両社のサービスを組み合わせて共同展開する協業も発表。このサービスの共同展開が、今回の新たな協業につながったようだ。

 今回の協業の興味深い点は、キヤノンがクラウドサービスのグローバル展開に向けたパートナーとして富士通を選んだことだ。これまでの両社の協業は基本的に国内向けを対象にしたものだったが、キヤノンは、富士通が国内だけでなくグローバルにもクラウド基盤の強化・拡大に努めていることを評価したようだ。

 興味深いのは、それだけではない。キヤノンはかねて、複合機を含めたITシステムおよびその関連サービスのグローバル事業展開において、米Hewlett-Packard(HP)と協業関係にある。

 その後、両社の協業がどれだけ進展しているかは不明だが、HPも有力なグローバルクラウドベンダーなだけに、キヤノンはHPをパートナーにする選択肢もあっただろう。

 だが、キヤノンは今回、富士通をパートナーにした。おそらく、まずは国内をベースにしたグローバル展開であることや、クラウド基盤の共有や連携サービスの企画・開発・販売における協力体制づくりがポイントになったものとみられる。

事務機3大勢力を軸に新たな合従連衡へ

 さらに興味深いのは、今回のキヤノンと富士通のクラウド事業での協業が、従来の事務機メーカーとITベンダーの協業の構図を変化させるきっかけになる可能性があることだ。

 世界の事務機市場では、米Xeroxおよび富士ゼロックスのゼロックス陣営と、キヤノン、リコーの3大勢力が長年、激しいバトルを繰り広げてきた。その3大勢力とITベンダーがここ2年余りの間に急接近している。

 口火を切ったのは、リコーと米IBMが2009年1月に発表した戦略的提携だ。当時の発表文によると、「両社はドキュメントソリューションサービス分野において、グローバルでの提案・販売活動やその実現に向けた製品・サービスの開発を共同で展開することで合意した」とある。

 まさしく包括提携だが、当時の発表文に「クラウド」という言葉はなく、今回、キヤノンと富士通が発表したようなスケールの協業について、その後、リコーとIBMから何らかの発表があったとは聞いていない。

 リコーはその後、SaaSベースではIBMだけでなく、グーグルやマイクロソフトなどとも幅広く提携しているが、クラウド事業のグローバル展開となると、リコーがパートナーに選ぶのはやはりIBMではないか、というのが業界関係者の大方の見方だ。

 ではゼロックス陣営はどうか。事務機だけでなくさまざまなIT機器も製品ラインナップに持つXeroxの動きで最近目立ったのは、2009年9月に発表されたITサービス大手の米Affiliated Computer Services(ACS)の買収である。

 ACSは日本では馴染みがないが、買収総額64億ドルとXeroxにとっては大きな買い物だった。これによりXeroxは、ITサービスへも業容拡大を図った。だが、ACSの買収をめぐる話の中でも「クラウド」という言葉は出てこなかったと記憶している。

 SaaSベースでは、富士ゼロックスが2010年9月に日本オラクルとマーケティングソリューション分野で提携したりしているが、クラウド事業のグローバル展開に向けてITベンダーと協業するような話は、今のところ聞こえてこない。

 では今後、クラウド事業のグローバル展開に向けた、事務機メーカーとITベンダーの協業の構図はどう変わるのか。リコーとIBMは、キヤノンと富士通が今回発表したような協業を結ぶのか。ゼロックス陣営は果たしてITベンダーと協業するのか。HPはどう動くのか。ハードウェア事業を持った米Oracleもドキュメントサービス分野には興味津々だろう。そう考えると、今回のキヤノンと富士通の協業は、この分野の新たな合従連衡の始まりを示した動きかもしれない。

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