上流から下流までプロセスを統合 日本IBMが示す「商取引」の未来IBM Smarter Commerce Forum リポート

モバイル機器やソーシャルメディアの普及によって人々のライフスタイルが変わる中、企業はどのように消費者と向き合っていくべきか。日本IBMが開催した「Smarter Commerce Forum」で、消費者を中心とした新しいマーケティングや物流の仕組みが紹介された。

» 2011年08月15日 10時00分 公開
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 モバイル機器やソーシャルメディアの普及によって、人々は場所や時間を選ばず必要な情報にアクセスできるようになった。これにより企業と消費者の関係性が変わり、市場における商取引のあり方にも変化が起きつつあると言われている。

 米IBMがグローバルで提唱する「Smarter Commerce」構想は、複数の製品やサービスの提供を通じて、生産者からの調達、物流、マーケティング、販売、カスタマーサービスといった商取引にかかわるプロセス全体を効率化するというもの。同構想は、変わりゆく商取引のあり方にどのような未来を築くのか。日本IBMは7月21日に開催した「Smarter Commerce Forum」で、日本における新しい商取引の事例紹介とともに、同社がSmarter Commerceの上に描くビジョンを示した。

IT革命は「むしろこれから」

photo 慶應義塾大学大学院の夏野剛氏

 「“IT革命”という言葉は死語になってしまったが、モバイル機器が人々に行き渡った今、これからがむしろ本番だ」──慶應義塾大学大学院で特別招聘教授を務める夏野剛氏は基調講演の中でこう力を込めた。

 90年代後半から2000年代にかけての情報技術の発展は、人々の生活に大きな変化をもたらした。かつてはオフィスでPCの個人利用を許可している企業などほとんど無い状況だったが、この10年あまりで環境は大きく変化したと夏野氏は強調する。

 ビジネスのあり方も変わったという。かつては新規ビジネスを立ち上げる際、市場調査をしてから研究や技術開発などを行う必要があった。現在、多くの調査はネット検索で代用でき、研究や技術開発はアウトソーシングできる。これにより、新ビジネスが立ち上がるスピードは劇的に変化したという。

「この10年間で、仕事のやり方からコミュニケーションのあり方まで、人々のライフスタイルは大きく変化した。しかし官公庁の業務など、まだITの恩恵をさほど受けていない分野も多い。商取引の仕組みもそのような“IT革命のやり残し”の1つ。高性能なモバイル機器が普及した今こそ、こうした未踏の分野を変えていくべきだ」(夏野氏)

無印良品とZOZOTOWN、顧客中心マーケティングの仕組みとは

 国内の先進的なマーケティング事例を紹介するパネルディスカッションでは、良品計画の奥谷孝司 WEB事業部長と、スタートトゥデイの清水俊明 マーケティング本部CFM部ディレクターが登壇。日本IBMの田崎慎 ソフトウェア事業スマーター・コマース推進担当理事による司会進行のもと、両社のマーケティングの手法や成功のポイントなどが語られた。

photo 日本IBMの田崎慎氏、良品計画の奥谷孝司氏、スタートトゥデイの清水俊明氏(左から)

 スタートトゥデイが運営するファッションECサイト「ZOZOTOWN」では、1年以内に買い物をした「アクティブユーザー」が会員全体の約40%を占めるという。清水氏は同社のCRM戦略を、「CFM(Customer Friendship Management)戦略」と呼ぶ。「お客様と友達のような関係になること」(同氏)という発想に基づく同社のCRM戦略とはどのようなものか。

 清水氏によると、テレビCM、Web広告などのマスマーケティングは、認知度向上の効果は高いものの、顧客との関係をリアルタイムかつ長期的に構築するには十分ではないため、従来よりもクロスメディアマーケティングを強化し、推進する必要があったという。

 そこで同社が実施しているのは、ユーザー一人一人の行動の変化を察知し、すぐに反応するというマーケティング手法だ。一例として、靴を購入したユーザーには「シューズのお手入れメール」を送ったり、バースデーメールやポイント失効期限をお知らせするメールを送ったりといった、One to Oneのマーケティング手法をシステムによって自動化することで、従来比で相当高いコンバージョンを獲得し、多くのユーザーのアクティブ化を維持しているという。

「お客様の行動の変化やニーズを想像し、適切なタイミングでコミュニケーションを創造することで、押し付けの広告ではなく、親切なサービスとして受け取っていただける。広告とサービスという意識の違いは大きい」(清水氏)

 一方、良品計画が運営する「無印良品」では、マーケティング施策により実店舗とオンラインストアの連携で売り上げを伸ばしているという。同社の奥谷氏によると、(1)いかに店舗に来てもらうかを考えること、(2)ネットストアへのアクセス向上やブランディング、(3)顧客とのコミュニケーションが重要だという。

 「当社は実店舗を持つ小売業なので、まずは店舗にメリットがある取り組みが重要だ」と奥谷氏は強調する。実店舗に来店しないと利用できないクーポンをオンラインストアの利用者に向けて発行したり、ネットで注文した商品を店舗で受け取れるようにするなど、オンラインからオフラインへの垣根を低くしているという。

 また同社はTwitterやFacebookといったソーシャルメディアを積極的に活用しているが、「ソーシャルメディアのKPI設定は難しく、そこからの売り上げはまだ少ない」と奥谷氏。

「ソーシャルメディアではユーザーのやり取りや意見を参考にしたり、例えば(Facebookでの)ファン数が1万人を突破したら“おめでとうキャンペーン”を実施するなど、ユーザーとの“ゆるいつながり”を作ってブランディングしていきたい」(奥谷氏)

マダラが高級魚になる?

 続いて、物流の仕組みを変革する事例として紹介されたのが、釧路丸水、釧路公立大学、魚河岸三代目千秋、日本IBMなどが、地域資源の潜在力の発掘をテーマに共同で取り組んでいる「スマーターフィッシュ・プロジェクト」だ。同プロジェクトでは、北海道・釧路でとれたマダラを新鮮なうちに東京・築地の料亭に空輸し、通常は鮮度の問題で難しかった刺身などに調理するという実証実験を行った。

photo 釧路公立大学の小磯修二氏、釧路丸水の近藤信治氏、魚河岸三代目千秋の小川貢一氏、日本IBMの久保田和孝氏(左から)

 実験ではマダラを輸送する箱の内部に温度管理センサータグを設置。マダラを築地まで輸送する際、タグが発する電波を通じて箱内部の温度状況を日本IBMのクラウド上で管理し、東京の料亭などからインターネットでリアルタイムに確認できるようにした。これにより、「中間流通の状況が見えにくかった従来の物流の問題を解消し、利用者や消費者に直接、商品の価値と魅力を伝えられるようになった」(釧路公立大学の小磯修二学長)という。

 温度管理状況の確認に加え、今後スマートフォンとTwitterを利用することが検討されている。近い将来、魚の管理状況について、「わたしはどこで水揚げされて、どのように流通してきました」という情報が、あたかも魚がつぶやいているかのようにツイートされるようになる。消費者などはこのつぶやきをスマートフォン上で見て注文することで、当日または翌日には注文した魚を安心して手に入れることができるようになるだろう。

 「このプロジェクトによって、東京の消費者により多くの価値を提供できるようになるはずだ」と、魚河岸三代目千秋の小川貢一氏は話す。マダラの肝は最も早く鮮度が落ちやすい部位のため、かつては廃棄処分をしていたが、同プロジェクトによって安心して利用できるようになったという。その味は「(珍味で有名な)アンコウの肝にも負けない」と同氏は胸を張る。

 モノがインターネットにつながり、モノと情報が一体となって流通することにより、モノの価値向上や消費者への安心・安全の提供など、商取引の現場に大きな変化が起こっている。この新しい商取引のモデルはさまざまな業種で適用できるという。

企業と顧客の新たな関係と、それに応えるソリューション

 本フォーラムでは、日本IBMによるSmarter Commerceの可能性についても紹介された。

photo 日本IBMの浅野智也氏

 「モバイル機器とソーシャルメディアの普及により、消費者が自由に情報にアクセスしたり、情報連携するようになった。その結果、購買行動の主導権が企業から消費者へ移った」――日本IBMの浅野智也グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティンググループ スマーター・コマース担当 パートナーはこう説明する。同氏によると、今後はSNS上の情報も含めて、消費者のニーズや市場動向の変化をとらえた商品、サービスの重要度がさらに増すのは明白だという。

 そうした中、企業側はどう変わるべきか。日本IBMの小川光由グローバル・ビジネス・サービス事業 スマーター・コマース推進担当 パートナーは「現在の商取引では、企業は先を予測しながら供給活動を効率化しているが、これからは“今”を素早く察知して、その変化に瞬時に応える必要がある」と強調する。

photo 日本IBMの小川光由氏

 また、取引のマルチチャネル化に伴い、各チャネルの連携が急務だという。例えば、Webで情報を集めた消費者がそのままWebで商品を注文し、モバイル端末で配達状況を確認。都合によりコールセンターに電話して自宅から配達先を変更し、店頭で商品を受け取るといった購買プロセスもあり得るが、これらのプロセスを統合的に管理している企業はまだ多くないという。しかし、さまざまなチャネルを統合することで、それを生かした新サービスを作るチャンスでもあると小川氏は話す。

 こうした商取引の変化への対応策が、日本IBMがSmarter Commerceを通じて提供する製品群の利用だ。企業はマーケティングソフトウェア「Unica Enterprise」を利用することで、各種マーケティングプロセスの自動化や、リアルタイム分析による総合的な効果測定などを実現できる。また販売物流管理ソフトウェア「Sterling Commerce」によって、電話やWebなど複数チャネルからの注文に対し、各拠点の倉庫から、注文者の自宅やコンビニエンスストアの店舗など、さまざまな場所に商品を配送できるようになる。そのほか、1台の受信機で最大2万5000平方メートルをカバーする高性能RFIDシステム「Mojix STAR System」を利用すれば、物流における変化を迅速に可視化し、サプライチェーンの効率化につなげることが可能だという。


 ビジネスにおいて、企業と消費者のパワーバランスや位置関係が変わりゆく中、新たな時代の商取引を実現する日本IBMのSmarter Commerceから今後ますます目が離せなくなるに違いない。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2011年9月14日