激化するワイヤレス・ブロードバンドの主導権争い伴大作の木漏れ日

ワイヤレス・ブロードバンドが急速に普及している。ここから見えてくることとは何か。

» 2011年08月18日 12時50分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

 あまり一般に知られている話ではないが、モバイルルーターが売れている。データ端末の中で久しぶりのヒット商品だ。その要因として、スマートフォンがモバイル端末出荷数の過半を占めるようになり、iPadのようなタブレットデバイスもかなり普及が進んだことが考えられる。

 モバイルルーターといえば、イー・モバイルだ。同社の製品が他社に先駆けて出荷された。その結果、同社の回線契約数が334万1000件(2011年6月末時点)となったという。それに対し、WiMAXを掲げるUQコミュニケーションは今年6月15日に100万件を突破したようだ。

 一方、サービスエリアだが、イー・モバイルはDC-HSDPA(42Mbps)に関して首都圏ならばほぼすべての地域でつながるようになっている。それに対し、UQ側は明らかに旗色が悪い。

広帯域化するワイヤレス・ブロードバンド

 昨年暮れ、ドコモは次世代モバイル通信規格であるLTE(Long Term Evolution)、サービス名称「Xi」(クロッシィ)を開始。下り最大37.5Mbps、上り最大12.5Mbpsと現行のFOMAサービスとは桁違いに速い。まさに固定回線のADSL並み、あるいは光ファイバーの帯域を実現しようとしている。既にサービスを開始しているイー・モバイルのDC-HSDPAは下り42Mbpを実現。クロッシィはこのサービス対抗した形だ。

 イー・モバイルはサービスエリアでも先行している。ドコモはクロッシィのサービス地域を今年中にも現在のイー・モバイル並みに整備を行う予定だという(LTEは既存設備をほとんど更新する必要があるのに対し、DC-HSDPAは既存設備を活用可能。このあたりのスタートダッシュに差が出た)。

 一方、当初はサービス開始に出遅れ感があったUQも7月6日に世界初WiMAX2のフィールドテストを行い、2013年早期にサービスを開始予定と発表した。WiMAX2は下り最大165Mbps、上り最大55Mbpsと現在のサービスの4倍以上に高速だ。また、従来の方式では高速移動への対応に難点があるという見方に対し、新サービスでは従来の移動速度120Km/hから350Km/hと、こちらも高速移動への対応が強化される。

 このようにモバイルの高速データ通信に関して、現在はサービスが一新される革命的な状況が始まった段階にある。背景にはスマートフォンやタブレットなどの急速な普及、SNS、Webアプリケーションの浸透などがある。固定系で高速化の動きが静かに進んでいるが、ワイアレスの世界でもそれが急速に進んでいる。これだけの広い地域でワイヤレス・ブロードバンドが普及したら固定系との競争は避けられなくなりそうだ。

最大の課題

 ワイヤレス・ブロードバンドが一般的になると、最も大きな問題になるのはアクセス帯域である。これについては、僕自身が大きな経験をしたことがある。日本で最初のADSLサービサー「東京めたりっく通信」の創業だ。それまで64Kbps、従量制課金が一般的な時代に突然500Kbps、1Mbpsフラットレートを持ち込んだ。当初は多くのユーザーから信頼されなかったが、やがて、広帯域インターネットアクセスの利便性が認識され、サービス開始1年ほどで10万ユーザー近くを獲得した。しかし、当時はすべての通信インフラはナローバンドが標準で、「掟破り」の高速通信は数多くの難問に直面した。特に通信のトラフィックを制御するアグリゲータでトラブルが多発し、サービス停止に何度も見舞われた。また、アクセス回線からインターネットへの接続コストは当初、インターネットアクセス・プロバイダの力が強く、帯域の不足と高コストに悩まされた。

 トラフィックが増大するとバックボーンの帯域は窮屈になる。そのような場合、一般的には回線ごとのトラフィックを抑える制御をするのだが、バックボーンの帯域が限られていると、すぐにピークに達し、制御が常時という事態になりやすい。

 ワイヤレス・ブロードバンドでも同様の事態が発生している。この背景にはスマートフォン(iPhone)の急速な普及により、従来型の3G携帯とは比較にならない高いトラフィックが発生した。そのため、アクセス帯域を制限せざるを得なかったのは容易に想像できる。

新しいデバイスが創る新しいネットワーク

 さて、本題に戻ろう。僕の推測では、モバイルルーターの出荷数は、やがてデータカード型デバイスの出荷数をはるかに上回るようになる。また、音声会話と同時にデータ通信をWiFiで出来るハイブリッド型も登場するに違いない。

 そのような時代になるとデバイスはさらに高度な機能を要求されるようになる。もちろん、どの方式が主導権を握り、低コストで消費者に提供できるかが鍵を握ることはいうまでもない。

 日本では一般的な第三世代ケータイ、いわゆる3Gだが、アップルのiPhone 3Gが登場するまで、日本や韓国などネットワーク先進国を除くと世界のモバイル・オペレータで3Gのサービスではそれほど一般的なものではなかった。世界的にはまだまだケータイ電話普及期にあたり、音声通話中心のGSMが主流だった。最近業績にかげりが出たNokiaは音声ケータイ電話のスターだった。この時代がずいぶん長く続いた。それが、iPhone 3Gの登場とアップルがWCDMAの採用、AT&Tワイアレスとの提携で様変わりした。今や、世界中がWCDMAだ(自国の独自技術に固執する中国は別だけど)。

 3.9Gでは、一体どうなるのだろうか。ドコモが進めるLTE、イー・モバイルとソフトバンクが採用するDC-HSDPA、それとも、最も進んだ方式とUQが自負するWiMAX2なのか。これを決めるのは3Gで決定的な役割を果たしたアップルか、それとも他のサービサー、デバイス・ベンダーだろうか。いずれにしろ、この数年のワイヤレス・ブロードバンドからは目が離せない。

 【お詫び】内容に一部誤りがあったため、修正いたしました。(2011年8月19日 17:44)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ