【第2回】クラウドサービスの潮流を事業化する韓国通信企業未来のために働くIT部門となれ(1/3 ページ)

前回は、M&Aを梃子に未来志向を取り戻したウォルマートを取り上げたが、未来のために働く環境を作る方法はM&Aに限られるわけではない。財閥を中心として産業界が構成され、基本的に自力による成長(オーガニック・グロース)を志向する点で日本と似ている韓国でも、新しいテクノロジーによってビジネスを革新する動きが盛んである。今回は、クラウドコンピューティングを活用した新ビジネスを推進する韓国通信企業に着目し、未来を切り開くヒントを追求する。

» 2011年08月24日 08時00分 公開
[松元貴志,A.T. カーニー]

韓国通信業界の成り立ち

 「近くて遠い国」と呼ばれていた時代に比べ、ぐっと身近になった韓国。特にここ数年は韓流ドラマやK-POP人気の影響もあり、韓国と接する機会が多くなっている。実際日本から韓国への渡航者は、1980年の50万人程度から、2010年には300万人を超えるまで増加している。しかしながら、韓国の通信企業の話となると、詳しい人はごく一部に限られるだろう。

 韓国の通信業界は、現在3大通信企業グループに集約されている。固定通信、ブロードバンドで圧倒的なシェアを持つKT、携帯電話市場で50%以上のシェアを持つSKテレコム、2010年にグループ内の通信会社3社が合併して誕生したLGユープラスの3社である。

 3社とも、源流は1981年に設立された韓国電気通信公社(KTA)にある。KTAから固定通信、ブロードバンドを引き継いだのがKTであり、携帯電話を引き継いだのがSKテレコムである。KTAとの合弁として設立したデータ通信会社を中心に、携帯電話の規制緩和時に参入した携帯電話会社、韓国電力から買収したブロードバンド会社が合併したのがLGユープラスである。

 このように見てみると、電電公社から始まり、現在の3大グループ体制に集約されていった日本の通信業界と似ている部分が多い。第2世代携帯電話において世界の主流となる通信方式(GSM)を選ばなかったために、海外端末メーカーの参入や国際ローミングサービスが進まず、国内向けの携帯電話端末が独自の進化を遂げ、ガラパゴス化した点も共通している。また、日韓とも、固定電話の回線数はすでに減少傾向にあり、携帯電話の契約数が飽和状態に達している点も似通っている。

固定・携帯の合併を契機に動き出すKT

 日韓の通信業界で決定的に異なるのは国内の市場規模である。減少傾向、飽和状態にあるといっても、固定電話の回線数、携帯電話の契約数とも、日本の方が2.4倍の規模を有している*1。韓国国内市場がこうした危機的状況にある中、国内の既存事業にとどまっている限り成長性に限界があることをかねてから懸念していたKTは、2009年以降大きな変革に着手していく。

 手始めはグループ内で携帯電話事業を担当するKTフリーコム(KTF)の吸収合併だ*2。2009年1月に開かれたKTの取締役会でKTF合併を決めた際に、以下の点を合併の理由として公表している。

  • 固定・携帯を融合する“コンバージェンス”事業をリード
  • グローバル事業者への転進

 固定とモバイルの融合によって新しいビジネスを生み出すこと、既存の固定電話、携帯電話のビジネスを海外に展開することにより、「既存事業」×「国内」という枠組みを超えた成長を志向することを宣言したのである。

 合併直後の2009年7月〜10月には、固定電話/ブロードバンド接続と携帯電話のセット割引や、一つの携帯電話端末機で携帯電話網と無線LANの両方で音声通話を利用できるサービスなど、狭義のコンバージェンスサービス(固定と携帯を組み合わせたサービス)を打ち出している。ただし、これらはあくまで音声通話の新しい料金プランを超えるものではなく、KTにとっての戦略的意味合いは、「既存事業」である音声通話の「国内」でのシェア維持・向上という点に限られていた。


*1 飽和固定電話の回線数は、減少を開始した直後の2000年、韓国が2600万回線、日本は6200万回線。携帯電話の契約数も、2010年時点で、韓国が5100万契約、日本は1億2000万契約と、いずれも日本の方が2.4倍の規模がある。
*2 KT本体は固定電話を中心とした事業を展開しており成長戦略を描きづらかったことに加え、KTFは携帯電話事業で業界2位、30%程度のシェアにとどまっており、マーケティング効率がシェア1位のSKテレコムより劣るという課題があった。

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