【第2回】クラウドサービスの潮流を事業化する韓国通信企業未来のために働くIT部門となれ(2/3 ページ)

» 2011年08月24日 08時00分 公開
[松元貴志,A.T. カーニー]

クラウドコンピューティングの事業化に挑戦するKT

 本格的に「既存事業」から「新規事業」へ、「国内」から「グローバル」への展開を図る「クラウドコンピューティング戦略」がKTからアナウンスされたのは、合併から1年を経た2010年8月のことである。

 実は、KTのクラウドコンピューティングへの模索は2009年から始まっていた。2009年1月にKTの会長に就任した李錫采(イ・ソクチェ)は、スマートフォンやタブレットPCの普及、インターネットを使った個人からの情報発信の増大、動画、音声などによるコンテンツの多様化がもたらす“データ爆発”(データ量の急激な増大)を通信事業者が直面する課題ととらえ、これに注力すべきであると考えていた。

 当時、シリコンバレーでは米Facebookが急速に注目を集める傍らで、米Amazonが先鞭をつけたクラウドサービスに対して米Googleや米Sun Microsystemsが新サービスを続々と発表しており、ソーシャルネットワークサービスとクラウドサービスが新しい成長領域として注目されていた。

 ソーシャルネットワークによってデータ爆発はますます加速する。そこで必要となるのは、データ量拡大に負けないだけの効率性を持つクラウドサービスであるとの確信を持った李会長は、「高品質で価格競争力の高いサービスを提供する」ことをクラウド事業のビジョンとして掲げ、これを実現する方法の検討を徐禎植(ソ・ジョンシク)戦略担当常務(当時)に命じた。2009年12月のことである。

 クラウド事業の立ち上げを任された徐は、シリコンバレーに飛んでKTのビジョンを実現するためのパートナーを探した。クラウド技術を提供する多くの企業と会った徐は、次第に「クラウド技術のリーダーはインターネット企業であり、通信事業者や企業向けITサービス事業者ではない。インターネット企業がクラウドサービスの潮流を作り出し、標準を決めている」との考えに傾いていった。

 2010年3月に徐の報告を受けた李会長は、ただちにクラウド専門担当部署を設置するよう指示した。現場からはプロジェクトチームでの推進が提案されたが、李会長の命によって、会長直属の本部として活動を開始することになり、1カ月後の4月には「クラウド推進本部」が発足した。そこには、グループ内から専門家60人が集められ、事業化に向けて一気に走り出したのである。

 その後のKTは、2010年6月に個人向けのクラウドサービス「ucloud(ユークラウド)」を立ち上げ、2011年3月からは中小企業向けのサービス「ucloud cs(ユークラウド・シーエス)」を始めるなど、非常に短期間で商用サービスを続々と打ち出している。

 KTのクラウドコンピューティングに関する最新のトピックスは、2011年5月末に発表されたソフトバンクとの合弁事業の発表である。KTとソフトバンクが提携し、クラウドサービスなどを提供する合弁会社を9月までに韓国で設立することを発表したのだ。

 KTが51%を、残りをソフトバンク側が出資し、10月までに韓国国内にデータセンターを開設しサービスを開始する予定である。ソフトバンクが日本企業向けの営業活動を行い、KTがセンターの運営を担当することで、KTはクラウドサービスのグローバル展開の第一歩を踏み出す。KTによると欧州の複数の企業との間で同様の提携も視野に入れているらしい。まさに、「新規事業」を「グローバル」に展開する動きが立ち上がりつつある。

合弁事業発表の会見に臨むソフトバンクの孫正義社長(左)とKTの李錫采会長(出典元:KT) 合弁事業発表の会見に臨むソフトバンクの孫正義社長(左)とKTの李錫采会長(出典元:KT)

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