【第2回】クラウドサービスの潮流を事業化する韓国通信企業未来のために働くIT部門となれ(3/3 ページ)

» 2011年08月24日 08時00分 公開
[松元貴志,A.T. カーニー]
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KTに学ぶべきこと

 2009年を境にKTがクラウドサービスを一気に展開できた要因の1つは、李会長や徐常務のトップダウンでの意思決定の速さにあることは間違いない。しかし、成功要因はそれだけではない。

 トップがいくら笛を吹こうとも、現場が踊らなければ(革新を推進しなければ)、変化は起きない。KTが新しいテクノロジーを生かしたサービスを短期間で提供できるのは、以下の3つの原則に従っているからである。

(1)自らの事業ビジョンに適合した技術を選定する

(2)事業開始の目標時期から逆算してスケジュールを決める

(3)企画担当と技術担当を集めた新組織を作り同じ目標を追及する

自らの事業ビジョンに適合した技術を選定する

 世の中にある最新技術を取り入れ、先行者に学ぶことは誰でも考えるが、多数の技術やパートナーがある中で、どの技術を採用するか、誰に学ぶかを決めることは容易ではない。

 採用すべき正しい技術を選び、学ぶべき正しい相手を選ぶには、自らが何を必要としているかを明確にすべきである。必要とするものは目的によって決まるので、新規事業を始めるのであれば、事業コンセプトあるいは事業ビジョンの観点から選定基準を設定していけばいい。

 KTの事例では、「高品質かつ価格競争力の高いクラウドサービスを提供する」とのビジョンを掲げ、これを実現するための技術、サービスを選定したことが成功のポイントである。ここで注意が必要なのは、複数の基準間での優先順位を勘案した選定プロセスを考えておことである。「高品質」と「価格競争力」は相反するものであり、単純に両者の最大化を追及することは不可能である。おそらく、KTでは価格競争力をより重要な要素と捉え、まず最低限必要な品質基準を設定し、それをクリアし得る技術の中で価格協力を最も高められるものを選定したのではないだろうか。

事業開始の目標時期から逆算してスケジュールを決める

 事業化の方針を決めた後の実現方式の検討にあたっては、時間を区切って進めることが重要である。技術担当の典型的な思考パターンで考えると、詳細な比較検討ができるまで調査・検証の期間を十分にとってから先に進むということになりがちである。

 しかし、新規事業などの「未来のこと」を検討する場合には、詳細にわたって緻密に調査・検証することが必ずしも正しいやり方ではない。いくら検討しても決着がつかない不確定要素も多いし、前提とする条件も日々変化していく。このような柔らかいテーマを解き明かすには、緻密さよりもむしろ大胆さが求められる。先に仮説を設定してから効率よくそれを証明する、事前に設定した時間で結論が出ないことは仮置きの結論を設定して先に進むといったやり方がふさわしい。

 このような仮説思考、目標思考の進め方を促進するには、事業戦略上いつまでに結論を出さなければいけないかを決め、そこから逆算でスケジュールを引くことが重要である。KTでも、検討から半年以内にサービスを開始するといったスケジュールを決めていたからこそ、これだけのスピード感でクラウドサービスを立ち上げられたのだろう。

企画担当と技術担当を集めた新組織を作り同じ目標を追及する

 新技術を使った事業を短期間で立ち上げるには、新規事業の戦略立案を担当する企画担当と、新しいテクノロジーに詳しい技術担当を集めた新組織を作り、その「新しい器」でビジネスを推進することが重要である。この新しい器とは、KTのケースで言えば「クラウド推進本部」である。

 新しい器を作らない場合にありがちなのは、技術担当が知らない間に新規事業の企画が進み、残された時間が少ない時期に技術担当が呼ばれ「何とか間に合わせて欲しい」と伝えられる状況である。こうなると、技術担当は、「これはムリ」「それをするにはもっとお金がかかる」「そこまでやるのなら時間がもっと必要」といった自己防衛を図るための論陣を張らざるを得なくなってしまう。

 企画担当と技術担当の間で新規事業を立ち上げるという目標を共有し、膝を突き合わせた議論を重ねることで、このような不毛な議論は避けることができる。同じ目標を追求している者として相互に信頼し合うようになると、限られた時間や予算の中でどうやって目標を達成するかについて、双方が建設的なアイデアを出し合うようになるのである。

 IT部門は企業内のサービス提供者であるということはどの企業でも同じであるが、先進的な韓国企業は、その提供すべきサービスの1つに「テクノロジーによるビジネスの創造・変革」があることを認識し、それを実現するための仕組みを組織に落とし込んだからこそ今の成功がある。

 次回は、ビジネスをリードし、未来のために働くIT部門となるために、IT部門自らが何をすべきなのかについて論じたい。


著者プロフィール

松元 貴志(まつもと・たかし)

A.T. カーニー 戦略ITグループ マネージャー

1989年株式会社リクルート入社。インターネットベンチャーを経て、2002年A.T. カーニー入社。IT戦略・ ITマネジメント、企業変革・チェンジマネジメント、営業戦略・実行支援を中心に、多くの企業や金融機関を支援



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