震災後の日本企業に求められるのは「スピードと柔軟性」

日々、ビジネスを取り巻く環境は変化しており、そのスピードが増している。また、予測しなかったことが現実に起きている。「スピードとフレキシビリティ、日本企業にはこれまで以上にこの2つが求められている」とSAPジャパンの安斎新社長は話す。

» 2011年08月26日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
SAPジャパンの安斎新社長(右)とエンスリン本社社長

 「スピードとフレキシビリティ、日本企業にはこれまで以上にこの2つが求められている」── こう話すのは、この8月15日にSAPジャパンの社長に就任した安斎富太郎氏。

 3月の東日本大震災は直接の被災者・被災地に深い悲しみと甚大な被害をもたらしただけでなく、電力問題をはじめ、産業界全体にも計り知れない影響を及ぼしている。

 「日々、ビジネスを取り巻く環境は変化しており、そのスピードが増している。企業はどのように変化に追従し、先を見越して手を打てばいいのか。また、予測しなかったことが現実に起きている。どのように柔軟に対応すればいいのか。震災後、ますます多くの顧客企業がこの2つの課題に直面している」と安斎氏。

 かつてSAPジャパンの社長を務め、現在は全世界のセールスをはじめ、顧客との接点となるさまざまな業務を統括する本社の社長に昇格しているロバート・エンスリン氏も、「リーマンショックの影響も薄らぎ、新興国の旺盛な需要に牽引されてグローバル企業は積極投資に転換している。先の震災でサプライチェーンの課題が浮き彫りになったが、代替となるサプライチェーンの構築、特にそのスピードが求められている」と指摘する。

 エンスリン氏によれば、同社の第2四半期(4〜6月)のソフトウェア売り上げは世界全体で前年同期比(固定通貨換算)で35%増、日本市場も同じ勢いで35%増えているという。

 「日本法人の売り上げを見ていると、日本企業が素早く手を打ちつつあるのが分かる。例えば、インメモリデータベースのHANA(High-Performance Analytic Appliance)の案件も35を超え、むしろ他の地域よりも積極的に投資に動いている」とエンスリン氏はみる。

 1万2000台のタクシーから位置情報をGPSから吸い上げて解析、刻々と変化する道路の交通状況を把握するという全く新しいリアルタイム分析にHANAを活用している野村総合研究所は、世界初のHANAユーザーとして知られている。さらに安斎氏は「市場分析や売上分析に活用する大手量販店もあれば、製造業や公共分野にもHANAの活用は広がっている」と明かす。

 もちろんSAPでも日々の業務にHANAを活用している。社長として全世界のセールスを統括するエンスリン氏は、各拠点を飛び回りながらもCRMシステムにiPadからセキュアにアクセスし、リアルタイムの売上進捗を把握・分析できている。顧客情報は80万社に上るが、瞬時にiPadから分析結果を引き出せるという。

 エンスリン氏自ら実践するとおり、HANAのリアルタイム分析機能とSybase買収によって手に入れたモビリティのソリューションは実に相性がいい。「意思決定のスピードをどこにいても生かせる」と安斎氏は付け加える。

 「米国の自動車メーカーは幸いにしてリーマンショックの苦境から脱することができたが、スピードとフレキシビリティがなければ消えていたかもしれない。この2つを可能にするには、ERPとHANA、そしてモビリティといった適切なITシステムが欠かせない」とエンスリン氏。

 製造業では、市場の動きを予測して生産計画を見直す、といったことでも、これからはリアルタイムで行えるようになるとSAPではみている。

 「数時間ではなく、秒単位だ。これは全く新しい世界」(エンスリン氏)

 その製造業は震災後、歴史的な円高もあって、製造拠点の海外移転が加速しそうだ。

 「少子化が進む中、日本は付加価値の低いプロセスを海外の拠点に移し、国内はもっと知的財産を生かす経済に移行する機会だ。企業は最大の資産は人であり、製品の知識、技術開発の知識に精通した社員をさらに生かすことができる」とエンスリン氏は指摘する。

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