望郷の思い――『中国東北部の「昭和」を歩く』くつろぐ週末に本を読む

一昨年から年末に放送されている歴史ドラマ「坂の上の雲」などの影響もあって、中国東北部への旅行が人気です。本書は、旧満州と呼ばれるこの地で暮らす人々や、彼らの食文化などが生き生きと描かれています。

» 2011年11月12日 12時10分 公開
[ITmedia]

 司馬遼太郎の歴史小説を基にしたNHKドラマ『坂の上の雲』の影響もあり、近年、かつて満州と呼ばれた中国東北部の旅が人気です。

 満州というと、歴史の教科書に登場する昔の話とか、日本から遠く離れた地を想像する人が多いでしょう。でも、満州に日本人が生活していたのは70年ほど前のことです。それに、地図を広げてみると分かりますが、朝鮮半島と陸続きで、東京からだと沖縄までの距離と大差ありません。

『中国東北部の「昭和」を歩く ― 延辺・長春・瀋陽・大連 韓国人が見た旧満州』 著者:鄭銀淑、定価:1995円(税込)、体裁:334ページ、発行:2011年7月、東洋経済新報社 『中国東北部の「昭和」を歩く ― 延辺・長春・瀋陽・大連 韓国人が見た旧満州』 著者:鄭銀淑、定価:1995円(税込)、体裁:334ページ、発行:2011年7月、東洋経済新報社

 本書の著者、鄭銀淑(チョン・ウンスク)は1967年生まれですから、当時のことを実体験としては知りません。『韓国の昭和を歩く』(祥伝社)などの著作を持つ彼女は、日本の植民地支配の下で、政治的・経済的・文化的な衝突が激しかったその時代を生きてきた朝鮮人や日本人の生活感に興味を持ち、その残像を求めて旅をしているのです。

 最初は、韓国の旧植民地都市を訪ね歩き、その時代の建築物や家屋を見つけては、市井の人々の暮らしぶりなどを見聞きしながら旅をしていました。その興味は朝鮮半島を飛び出し、旧満州の地へと広がりました。本書は、その旅をまとめたものです。

 本書で紹介する旧満州の旅は、朝鮮族の多くが今も暮らす延辺朝鮮族自治州に属している延吉、龍井、図們などの小都市から始まります。彼らの生活には今の韓国では見られない朝鮮の伝統や風習、言葉が残っています。

 中でも龍井は満州時代の面影が色濃く、朝鮮人と日本人の物語が数多く残る、印象深い町です。郊外には朝鮮式の草ぶき家屋が残っています。人力車や馬車も当たり前のように往来しています。伝統的な朝鮮料理や延辺料理、そして手が届きそうなほど近くにある北朝鮮の影響が濃い料理が楽しめます。

 彼女の旅は、豆満江をはさんで北朝鮮と向かい合う「図們」、ロシア、北朝鮮、中国と国境を接し異国の文化が混在する「琿春」、当時の近代建築物が多く残る旧満州の首都「長春」、旧満州最大の都市「瀋陽」、さらに満州の関門だった「大連」、日露戦争の激戦地だった「旅順」と続きます。

 本書を読み進めると、懐かしい感じがして、満州とは直接関係ない方も、旧満州の地を訪れてみたいという気分になります。本書をきっかけに、難しい歴史の話は抜きに、旧満州という土地にいまも暮らす人たちと語り合う旅をしてみてはいかがでしょうか。

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