スマートデバイスとソーシャルメディアの融合によって、企業のビジネスはどう進化するのか。最近発表されたレポートをもとに、今回はこのテーマについて考察してみたい。
スマートフォンやタブレット端末などを総称した「スマートデバイス」と、FacebookをはじめとしたSNSやTwitterなどを総称した「ソーシャルメディア」。今、ICT分野で最も注目を集める2つのトレンドが融合することによって、企業のビジネス、とくに顧客サービスはどのように進化していくのか。
野村総合研究所(NRI)がこのほど、これをテーマにした2016年度までの「ITロードマップ」を発表した。なかなか興味深い内容なので、今回はその予見をもとに“旬”のテーマを考察してみたい。
まず、スマートデバイスとソーシャルメディアの融合について、NRIは次のように解説している。
スマートデバイスはタッチセンサーや加速度センサー、カメラやGPS(全地球測位システム)など、各種のセンサーを搭載している。従来の携帯電話では必ずしもすべての開発者がセンサー機能を用いたアプリケーションを開発できるわけではなかった。
それに対し、スマートデバイスでは各種センサーなどのAPIが一般の開発者にも公開され、企業はスマートデバイスのセンサーで得られた位置情報などのデータを用いたさまざまなサービスを提供しやすくなった。
時を同じくして普及が進んだソーシャルメディアは、スマートデバイスのセンサー機能と組み合わせられることで発展した、典型的なサービスの分野である。
タッチセンサーによる使いやすさの向上は、ソーシャルメディア上に蓄積される大量のコメントや写真などの閲覧を容易にし、GPSセンサーは位置情報の入力を省力化する。スマートデバイスのセンサー機能や、そこから得られたデータと、ソーシャルメディアを組み合わせることによって、生活者の関心や行動を表すデータがソーシャルネットワークを介して交換・蓄積される傾向が、今後はより拡大していくだろう。
企業はスマートデバイスのデータを活用することで、より多くの生活者に対して、ソーシャルネットワークを介して多様な情報提供や顧客サポートを行ったり、ソーシャルネットワーク上に反映された生活者の関心や行動の分析(ソーシャルインテリジェンス)と自社内の他の顧客関連データ(POSデータや顧客の購買履歴、コンタクトセンターの応対履歴など)を組み合わせた分析を行ったりすることで、顧客サービスの付加価値をさらに高めることができる。
NRIではこうした予見をもとに、企業の顧客サービスにおけるスマートデバイスとソーシャルメディアの融合と活用が、2016年度まで以下のように進展していくとみている。
まず2011〜2012年度は、スマートデバイスからの生活者データの収集やサービスへの誘導が始まるとして、次のように解説している。
生活者はスマートデバイスのGPSデータを、位置情報サービスを介してソーシャルネットワーク上で共有することにより、「今ここにいる」という情報を友人や知人同士で共有し始めている。
流通業や外食産業の店舗が生活者の位置情報の共有の輪に加われば、近隣にいる生活者を店舗に誘導したり、来店回数に応じてクーポンなどを提供したりすることで、販売促進や顧客ロイヤリティの向上につなげることができる。
企業はこれまでのように、企業から生活者に対して単に一方通行で情報を配信するだけでなく、スマートデバイスが持つセンサー機能を生かして生活者の置かれた状況などを把握し、最適なフィードバックを行う“センス&レスポンス”が実現できるようになる。
次に2013〜2014年度は、ソーシャルネットワークを介したサービス提供や顧客理解が深化するとして、次のように解説している。
端末のサービスを支える高速通信仕様であるLTE(Long Term Evolution)のように、ネットワークのインフラが整備されるようになると、スマートデバイスを介して生活者が受発信できるデータは、量的にも質的にも拡大する。さらに、生活者がスマートデバイスとソーシャルネットワークを介してつながる対象は、さまざまな機器やサービスに拡大していくと考えられる。
モノ同士が情報をやりとりするM2M(マシン・トゥ・マシン)の時代が到来すれば、より大量のデータが溢れかえることになり、企業はそれらのデータをどのように処理・分析するかという“ビッグデータ”への対応を検討することが必要になる。
そして2015〜2016年度は、ビッグデータの分析やソーシャルインテリジェンスによるコンシェルジュサービスが実現するとして、次のように解説している。
人とモノがソーシャルネットワークを介してつながるサービスは、当初は単独企業と生活者をつなぐサービスとして開始される。さらには複数の企業が生活者を取り巻くソーシャルネットワークにつながり、さまざまなサービスを提供する時代が来るものと予想される。
ソーシャルネットワークを流れる生活者のさまざまなデータから汲み取れるニーズに対して、単独の企業ではすべて応えることができない。そのため、ある一企業が運営するソーシャルネットワークに、別のサービスを提供するパートナー企業が参加して生活者の関心やセンサーデータを共有し、より広範な生活者のニーズに対応する付加サービスを提供するといった方向への進化が予想される。
ただし、NRIはこの時期において、次のような課題も示している。
活用できる生活者のセンサーデータが増え、一方で関与するサービス提供者が増えれば、生活者のどのようなニーズを感知し、誰がどのようなサービスを薦めるべきかという判断は難しくなる。過剰なレコメンデーションは逆に生活者の不満につながり、また、情報の氾濫を生み出すからだ。
したがって、ソーシャルネットワークの運営者や参加企業にとっては、個々の生活者がどのような状況下で、どのようなニーズを抱いているか、その状況に対して最適な提案を誰がすべきか、といった点について、より高度な配慮や最適化が必要となる。また、生活者が所持するスマートデバイス側でも、デバイスの利用者が求める、より適切な情報を取捨選択して提示する“コンシェルジュ”としての知的な機能が求められるようになる。
サービスの仕組みが高度化すればするほど、きめ細かい心配りが求められる、というのは、何とも興味深い予見である。
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