本当にクラウドは企業BCPの救世主となるのか?

クラウドは“魔法の杖”か? 海外に学ぶ現実的なBCP対応(3/3 ページ)

» 2011年11月29日 08時00分 公開
[溜田 信,A.T. カーニー]
前のページへ 1|2|3       

クラウドは果たしてBCPに役に立つのか

 一言でBCPといっても、いくつかのレベルかある。ここで、BCPを5つのレベルに分類してみよう(図1)

1. ディザスタ・リカバリ

2. ビシネスリカバリ(ミッションクリティカル業務)

3. 業務再開

4. 業務継続

5. クライシスマネジメント

図1 BCPの分類 図1 BCPの分類

 1、2に関しては、前段で説明したとおり、信頼性の面から、クラウドに全面的に頼るとのは難しいと考えられる。しかし、3の業務再開であれば人間の介在を前提としていることもあり、十分活用できる可能性がある。例えば、データのバックアップを基に、業務の再開を行えるようにできないだろうか。

 ここで米国の事例を紹介しよう。ニューヨークに本社を置く保険会社、Delphi Capital Managementでは、バックアップシステムを、テープベースからSaaS型に移行した。基幹データをテープにバックアップし、安全に保管するためにオフサイトまで運ぶというやり方はあまり効率的ではないという理由からだ。

 当然、従来からある自社運用型のデータバックアップ方式を使うという選択肢もあったそうだが、クラウドストレージを活用することにした。その結果、週20時間かかっていたバックアップ管理の手間をなくし、従来よりも高い信頼性を確保したという。

 東日本大震災で、一番先に復旧が望まれ、かつ実際に復旧が進んだものは、金融機関の現金引き出し業務だった。通信が途絶えている地域でも、免許証などで本人確認した上で、緊急措置として一定金額(10万円)以内なら預金を引き出せた。

 そこで、こうした業務にクラウドを活用して、預金者の本人確認だけができる情報を外部に確保しておき、インターネットを活用して業務を再開することが考えられる。緊急事態なので、多少の信頼性(99.99%)も許容できるだろう。

 使い方次第でBCPにクラウドを活用できるということである。しかもこうした形で事業を再開しなくてはならない事態というのは、それこそ「予想外」なので、発生確率がとても低い。そのために、高額の費用をかけて、バックアップのシステムを構築するのは、経済的に割に合わない。クラウドを使えば、低コストで実現できる可能性がある。場所も災害地域から離れたところに確保できることも大きい。


 クラウドは決して万能なツールではない。しかし、低コストで導入できることや、分散して存在することなどから、今回の大震災のような広域災害にも対応できるはずだ。想定外の災害に対するBCPにおいても、ホットスタンバイのような高価な方法だけではなく、クラウドを活用できるといえよう。少なくとも、そうした事態を想定することで、BCPとして考えられる現実的な打ち手の幅がかなり広がる。

 まずは自社で計画しているBCPのレベルを仕分けし、どこまではクラウドで代替可能で、どこからが難しいかを整理するところからスタートしたい。

著者プロフィール

溜田 信(ためだ・まこと)

A.T. カーニー 戦略ITグループ プリンシパル

東京大学工学部卒業。日本IBM、EDS、マイクロソフトを経て、A.T. カーニーに入社。IT・ハイテク企業や金融機関を主な顧客として、ITマネジメント、IT戦略、IT組織改革や、営業戦略、マーケティング、営業力強化などのコンサルティングを手掛ける。共著に『最強のコスト削減』(東洋経済新聞社、2009年)があるほか、専門誌での寄稿や講演も多数。趣味はマラソン。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ