プロジェクトは2009年12月にスタート。大きくインフラグループ、アプリケーショングループ、コンテンツグループに分けて、それぞれで要件定義設計、開発環境構築、機能テストなどを段階的に実施した。このたびのシステム刷新において肝となったのは、システムのパフォーマンス向上である。キャンペーン時に集中する空席照会アクセスピークに対して安定したレスポンスを維持すること、バックエンドのホストシステムへのアクセス負荷を軽減することなどを目的にいくつかの製品を選定した結果、大量アクセス処理というハイレベルな性能要求に応えられるとして、ANA SKY WEBの中枢にオラクルのインメモリデータグリッド製品「Oracle Coherence」を採用した。
採用理由について、近藤氏は特に「高速性」「信頼性」「拡張性」を挙げた。高速性に関しては、ストレージに格納されているデータベースに直接アクセスせずに、そのコピーをメモリ上に展開するインメモリ型のデータ処理基盤であるため、最終結果だけをデータベースに書き戻すだけの処理に短縮化される点を評価した。
信頼性に関して、同製品は欧米企業での採用実績が多かったことに加え、日本でも既に楽天証券が導入しており、IT勉強会などで情報共有していたことが大きかった。拡張性については、今後さらに取り扱うデータの量や種類が増えてくるため、柔軟に対応できるシステムを求めていたのである。
また、今回のシステム刷新で、性能リソース監視を強化した。ANA SKY WEBは段階的にシステムが追加されてきた背景から、個別のシステム単位で性能管理やリソース監視がなされていた。そのため、監視の注力ポイントや方法がバラバラで非効率であるほか、システム横断的な障害が起きたときに、どこに原因があるのか把握しづらかった。「システム間を横断するようなサービスもあり、単一のノードだけ見ていても全体像は分からなかった」と近藤氏は振り返る。そこで、横断的な性能監視を実施することで、顧客目線のより広い視野でシステム全体を監視できるようになった。
約1年半かけてシステム刷新プロジェクトは完遂。上述したように、関係部門、関係会社は多岐にわたっていたため、それぞれの調整がプロジェクトの鍵を握っていた。途中、スケジュールの遅延などいくつかの課題があったが、現場に足を運びプロジェクトメンバーとコミュニケーションをとることで、一つずつ解決していったという。
2011年5月に新システムは稼働開始した。現在までに2度のキャンペーンを打ち出したが、1件もサービスを止めることがなかったという。サポートセンターに寄せられるクレームもほぼ皆無となった。システム改良における具体的な成果としては、バックエンドのメインフレームがボトルネックになっていた従来とは異なり、インメモリグリッドでユーザーのトラフィックにレスポンスするため、ホストへの負荷が20%削減した。性能も向上し、レスポンスタイムが10倍の速度になった。
今後の展開について、「インフラは一通り整備できたため、これをどうビジネスに活用していくかがポイントだ」と近藤氏は述べる。具体的な内容については、これから検討していくというが、大量のアクセスを高速に処理できるという強みを発揮して、顧客への新たなサービスを積極的に考えていきたいとしている。
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