営業支援システムや顧客管理システムも、比較的クラウドを活用しやすい領域といえる。
これらのシステムを主に利用するのは営業部門であるが、日中は外出することが多いため、社外からインターネット上のクラウドサービスにアクセスして業務を遂行することは効率的であるし、震災時にも普段と変わりなく自宅から業務を行えるのは大きい。また、この領域では、セールスフォース・ドットコムを代表としてクラウドの普及をけん引してきた事業者が多く、既存システムからクラウドサービスへの移行事例も豊富にある。ただし、移行には通常のシステム移行と同じ工程が不可欠なため、クラウドサービスとのフィット&ギャップ分析など、移行のための工数や時間が必要となる。
基幹システムでのクラウド活用は、震災以前から議論されており、賛否両論がある。基幹システムはこれまで自社内製で独自開発してきたため、クラウドサービスに移行することができない、あるいは移行できるが膨大な時間を要する、社外のインターネット上に自社の重要情報を蓄積していくことに抵抗があるなどである。
しかし、今回の震災を機に全面的な移行は長期的に検討する必要があるものの、基幹システムのデータ消失に備え、旧来のテープバックアップから、クラウド上のバックアップサービスを活用して遠隔地に安価に重要データのバックアップを始めている企業も増えている。これは企業の業務データ量が年々増加していることも後押ししている。このケースでは、自社のデータ消失や情報漏えいを防ぐ、信頼できるクラウド事業者を選定することが重要である。
コスト削減や施策実行スピードの観点から、情報システムの継続性向上としてクラウド活用が有効と述べてきたが、留意すべき点もある。それはセキュリティの確保だ。クラウド事業者は数多く存在しており、そのサービスのレベルもさまざまである。被災時にクラウドサービスが停止する、あるいは重要データが消失・漏えいしてしまっては意味がない。
クラウドサービスの利用にあたっては、クラウド事業者の選定基準(下表参照)を事前準備してチェックするほか、必要に応じて、データセンターやファシリティ仕様、セキュリティ対策の実施状況などの情報開示を要請することも必要である。その上で、SLA(サービス品質保証契約)を締結し、定期的にSLAの達成状況をモニタリングしていくことが肝要である。
事業継続への取り組みは、企業の価値創造に直接的な効果をもたらすものではないため、なかなか取組みに対して十分な予算を確保することは難しい。そのような環境下では、セキュリティ面で不安があるからといってクラウドサービスを敬遠するのではなく、サービスの長所・短所を十分に理解した上で、コスト削減、施策実行スピードを重視して、クラウドを活用することが必要だと考える。
西方健治
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 テクノロジーソリューション マネージャー
監査法人系コンサルティング会社において、事業継続マネジメント態勢構築支援、情報セキュリティマネジメント態勢構築支援、ITガバナンス構築支援など、多様な業種、また多数企業に対するアドバイザリー業務に従事。2009年より現職。
公認情報システム監査人(CISA)/公認内部監査人(CIA)。
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