リーダーは進んで自分を差し出せコミュニティー運営の要諦(2/2 ページ)

» 2012年01月12日 11時30分 公開
[鈴木麻紀,ITmedia]
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期待値をあえて下げ、目的を明確にする

 コミュニティー内のやりとりは基本的にオンラインで行っている。これにはいずれ海外とコラボレーションするときのために、日本国内の遠隔地とのコミュニケーションで訓練しておきたいという気持ちもある。「直接会った人としかシェアできないのは狭すぎる」と渡辺さんは話す。オンラインのコミュニティーはそこを広げていけるはずだと。

 とはいえ、オンラインだけのコミュニケーションは難しい。途中からコミュニティーに入った人がなかなかなじめなかったり、誰も発言しなくて場が盛り上がらなかったりすることもある。そこで渡辺さんは「発言しない人たちは何を考えているのか」を意識するようになった。

 「オンラインで発言する人はほんの一部です。でも発言しない人たちの中には、そのコミュニティーにいることによって明確に利益がある人、今はないけれどいつかできそうな可能性がある人がいるはずです。その人たちにも理解してもらえるように、目立つ場所にこのコミュニティーは何のためにあるのかを書き、定期的にそこまでの話の流れをリマインドして、途中から参加しても付いてきやすいようにしました」(渡辺さん)

 もっと気軽に参加してもらいたいとも思うので、自分が情報発信をするときは「感情を表現するようにしている」という。書き込まれた情報が練りに練られ完成した文章ばかりだと、ほかの人が書き込むハードルが高くなる。だから自分はあえて「頭の中の考えている経過も書く」ようにしている。オフラインで会話しているときのような「疑似会話」の雰囲気を作るそうだ。

 そうするうちに「いいね!」や「コメント」など、なんらかの反応をする人が増え、前向きにコミュニティーに貢献したいと思ってくれる人がポツポツ出てきたという。

 「メンバーのコミュニティーに対する期待値を下げる」のも渡辺さんが実践していることだ。というのも、彼自身がいろいろなコミュニティーに参加するようになったころ、最初はとても気負ってしまったからだ。そのときある先輩から「いきなり全員と仲良くならなくてもいい。まずは1人、気の合う人を見つけたらいいじゃないか」というアドバイスをもらい、気持ちが楽になったそうだ。

 「コミュニティーは交流、ブレストの場所でいい。特定の話題について真剣に話すときには、別にプロジェクトを立ち上げてそこで進めていけばいいと思う」。なんでもかんでも1つのコミュニティーの中でやってしまおうと思わないことが大切だということだ。「コミュニティーの期待値がどこまでのものかを、マネジメントする人は考えていなければいけないでしょう」(渡辺さん)

リーダーに必要なのは、ボランティア精神のようなもの

 渡辺さんは2012年3月に大学院を卒業し、企業に就職する。4月以降の運営体制について質問したところ、次のリーダーは実はまだ決まっていないという。リーダーは自発的に出るものなので、今のメンバーの中から出なければ、外部から呼んでもいいとまで考えているという。

 コミュニティーの運営にはリーダーシップが必要だと渡辺さんは考える。ではそのリーダーシップとは何かと言えば、ひとことで言うと「ボランティア精神のようなもの」だ。コミュニティーにコミットし、すすんで自分を差し出せる人でなければならない。

 「身内だけの団体だったら、何となくうまくいくだろうとは思う。しかしSCUは企業と学生という異なる立場や考え方の人間が、それぞれ利害を持って集まっているコミュニティーだ。複数のステークホルダーを調整し、各プロジェクトがうまく回るようにプロデュースするためには、リーダーが自らリーダーシップを発揮しなければならない。それができなければこのコミュニティーは終わってしまう。」

 渡辺さんはよく、企業と学生それぞれが「何を求めているのか」を考える。相手が企業だったら、会社だけではなく、目の前の担当者は何が目的なのか、何がこの人にとって成果となるのか、どんなレポートを見せたらこの人は上司に評価してもらえるのかまで妄想するという。

 渡辺さんは表に立ってグイグイ引っ張っていくというよりも、裏方に回ってみんなの調整役に徹するタイプだ。物腰も話し方も穏やかで自分の感情や欲望を前面に出すことはない。静かに、だが深く考える。考えに考えて相手を理解し共通のゴールを見据えること、それが彼の考えるリーダーのあるべき姿だ。

渡辺友太さんのコミュニティー運営のポイント

  • コミュニティーの目的を明確にし、分かりやすくアナウンスする
  • コミュニティーに期待できることはあえて低く設定する
  • 深く進めたいテーマは、専用のプロジェクトを立ち上げる
  • リーダーに必要なのはボランティア精神のようなもの。すすんで自らを差し出せる人が望ましい
  • 異なるステークホルダーの利害を調整し、プロジェクトがうまく回るようにプロデュースすることがリーダーの役割

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