──企業がフリーエージェントみたいな働き方を取り入れることは難しいのでしょうか。
西村 スタイルとしては可能だと思うけれど、会社は誰のものかというときに株主のものだとなったら成立しません。フリーエージェントという言葉に重ねられているのは、自分自身が考えて動くということだと思うからです。誰かの意向を汲んで仕事をするのではなく、自己判断で仕事をするという独立した存在だからです。
馬場 博報堂を辞めたとき、ちょうど同社で別会社制度というのが出来始めた時期でした。周囲からこの制度を利用したら良いのではと言われたし、僕も何が何でも独立するというタイプでもなかったので、どんなシステムなのか調べてみました。すると、あくまでも博報堂100%子会社で、フリーエージェントのようなスタイルではありませんでした。
ただ、一人で事業を始めるとどうしても孤独になります。東京R不動産グループの場合、メンバーが孤独になり過ぎないサポート体制、例えば、出資したり、定例ミーティングを開いたり、ビジネスにかかわる知人を紹介したりという具体的な形を提供して、フリーエージェントという働き方を支援しています。
根底にあるのは、メンバーがやりたいと思ったことを叶えてあげたいということです。一人でスタートするという不安があり、それを周囲の組織がいかにサポートするかということのためにフリーエージェントのような考え方を導入しているのではないでしょうか。
吉里 実は、起業してやるぜという人間は東京R不動産では、それほど多くないんです。
西村 東京R不動産におけるフリーエージェントというのは、かかわり合える状態をつくっていくというワーディングになっているのですね。
僕自身はフリーエージェントという言葉をきちんと理解していません。決して否定的な意味ではなく。会社を辞めて、最初に出した「自分の仕事をつくる」という本は、会社勤務時代の自分に手紙を書くような感覚で、会社で働くことに対する違和感やもったいなさ、疑問などを抱きながら書きました。30歳のときに会社を辞めて17年ほど経ちます。そのときの気持ちを忘れてしまったこともあるでしょう。
フリーエージェントがどうこうという話は僕にはできませんが、思っていることは、他人に言われて何かをしている人の多い社会より、自分で考え、感じて動いていく人の多い社会の方が面白いだろうということです。他人に言われて行動して、結果が良くなかったら目も当てられませんが、自分で判断したことだったら、たとえ結果が思い通りでなくても納得感があります。
会社の中にいると、それがどこまでできるのだろうという疑問があります。会社勤めで、自分自身の考えや疑問などを起点に仕事を転がしていける人は、僕の経験ではすごく限られている気がします。
馬場 もっと企業も兼業を認めたり、パブリックドメイン化していったりすればいいのにと思います。多くの会社勤めの人たちは1つの仕事をしているだけでこの先も食べていけるのか心配にならないのでしょうか。兼業農家という言葉がありますが、わざわざこの言葉が出来たのか不思議に思います。1つの作物だけをつくる専業農家だとリスクが高いから兼業しようというのはごく自然な考え方ですよね。
人々がそういう発想を持てばもっと社会に流動性が出てきて、その方が企業も身軽になって良いのではないかと思うことがあります。
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