基幹業務アプリケーションのトレンドと未来像Gartner Enterprise Application Summit Report(2/2 ページ)

» 2012年03月06日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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未来のアプリに影響する技術とIT投資のあり方

米Gartnerマネージング バイス プレジデント デニス・ゴーハン氏

 ゴーハン氏のセッション「アプリケーション2020:ソーシャル、モバイル、ゲーミフィケーション、そしてコラボレーションがもたらすインパクト」では新興技術が将来のアプリケーションに与える影響、ビジネスとの整合性、そしてバランスの取れたIT投資を実現するためのヒントが示された。

 同氏は、注目すべき新興技術として「モバイル」「ソーシャル」「コンテクストコンピューティング」を挙げた。「モバイル」では企業でのコンシューマ向け製品の採用拡大や、個人所有端末の業務利用(BYOD)を背景に、クライアント環境が大きく変化しようとしている。

 「開発の比重がPCからモバイルにシフトし、非ITの人材が手掛けるケースも増える。アプリストアのような形で、社員が自らアプリケーションを選択、導入するようにもなるだろう。開発や運用の仕組みが変わることはIT部門にとって課題だが、チャンスでもある」(ゴーハン氏)という。

 「ソーシャル」がもたらす変化とは、SNSの普及を背景に人のつながりが多方面に広がり、プライベートとビジネスの“垣根”が薄まりつつある状況を指す。これもIT部門にとっては大きな課題だが、チャンスになるという。「2020年のアプリケーションはソーシャル機能を持っている。人の集合智からビジネスの価値を創造する基盤になるだろう」と同氏は予測する。

 「コンテクストコンピューティング」は、ユーザーの関心や好みを活用して高度なユーザー体験を実現するもの。例えば、位置情報を利用してユーザーが場所やデバイスを変えても、同一のユーザー体験を提供することがアプリケーションに求められるようになるという。「ユーザー体験プラットフォームをモデル化していくことが重要になるだろう」(ゴーハン氏)

 これらの新興技術をアプリケーションに組み入れる上で、ゴーハン氏はアナリティクス(分析)がカギを握ると指摘する。近年はインメモリのような高度な分析を実現する技術も多数登場し、精度の高い予測をリアルタイムに行えるようになりつつある。

 さらに同氏は、本好氏のセッションで触れられた「タレントマネジメント」について、ゲームの要素を盛り込むという考え方も紹介した。ゲームではユーザーがミッションをクリアしていくことで、スキルを挙げたり金銭を得たりできるが、企業でも成果を上げた社員に報酬を与える仕組みとしてこれを生かしてはどうかというもの。「斬新的なので経営者の理解が必要になるだろが、業務アプリケーションに取り込んでいくことになるかもしれない」と述べた。

 IT部門はこうした変化にどう対応していくべきか。ゴーハン氏は「業務部門との会話を深めていくべき」と語り、業務部門のアイデアやヒントをIT部門が汲んでその解決策を具現化する。ただし、ここでは既存のシステムやアプリケーションを抱えたままどのように新たな仕組みを作るかが課題になるといい、ゴーハン氏は「ペースレイヤアプローチ」という考え方を示した。

 ペースレイヤアプローチとは、システムを「記録システム」「差別化システム」「革新システム」の3つの階層でとらえ、ビジネス上の価値に照らして分類する。「記録システム」は長期利用されて変化を伴わないもの、「差別化システム」は競合優位性を確保するために柔軟性を必要とするもの、「革新システム」は斬新なアイデアを試すためのものという。3つのレイヤではそれぞれに適した統制を確保する。「記録システム」はパッケージを利用して維持コストを最小にし、安定運用を図る。革新システムはカスタム開発によって新規事業などに挑戦するが、成果が得られなければ迅速に撤退するといった具合である。

 最後にゴーハン氏は、最適なIT投資を行っていくためとして、「TIMEの視点」というものも提示した。これはアプリケーションのポートフォリオを、技術上の品質や状態の優劣、ビジネス価値の高低でとらえ、「許容(Tolerate)」「投資(Invest)」「廃止(Eliminate)」「移行(Migration)」の4つの象限にマッピングするという。

 企業のIT投資では初期には新規システムの開発に多くの資金を配分できるが、システムが軌道に乗れば年を追うごとに運用や保守の資金が膨らみ、新規開発に回らなくなる。その結果として、ITの革新が停滞し、ビジネス上の価値も低下していく。

 ゴーハン氏は、ペースレイヤアプローチシステムとTIMEの視点でもってシステムの取捨選択、もしくは再利用もしつつ、ビジネス上の価値を創造できる戦略的なIT投資を行っていくべきだと語った。

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