経営視点でみたCIOの役割松岡功のThink Management

今回は、経営視点でみたCIO(最高情報責任者)の役割について考えてみたい。キーワードは「ビジネスマインド」である。

» 2012年03月08日 08時15分 公開
[松岡功,ITmedia]

ビジネスプロセスの改善もCIOの仕事

 従来、企業の中で情報化を取り仕切ってきた部署は情報システム部門である。その役割はこれまで、社内情報システムの開発・運用・保守を行うことに終始してきた。

 しかし、本来、この部門に求められているのは、社内情報システムの“お守り”ではなく、経営戦略に基づくIT化の推進役である。そのためにも、とりわけこの部門を統括する責任者には、経営の視点からIT化戦略を遂行できるスキルが求められている。

 そこで、1990年代後半あたりから注目されてきたのが、そうした企業のIT化戦略を統括するCIOの存在だ。すでに欧米の多くの企業では、CIOはCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)を補佐し、経営戦略の実現に直結する重要なポジションを担っている。

 日本でも欧米との時間差はあるものの、CIOの必要性に対する認識は広がりつつある。日本でもIT戦略統括の専任担当役員を置く企業が着実に増えてきつつあり、兼務を含めれば大手だとほとんどの企業がIT戦略担当の役員を置いているとみられる。

 ただ、これらの役員の多くが、欧米企業のようなCIOとして本当に実務的に大きな役割を果たしているかというと、甚だ疑問の残るところだ。

 日本企業のCIOに足りないものは何か。この疑問に対して、CIOに関する定期的な調査や提言を行っているガートナー ジャパンの日高信彦社長から、かつてこんな話を聞いた。

 「欧米企業のCIOはITの活用だけでなく、ビジネスプロセスの改善、さらには情報そのものの活用にまでオーナーシップを発揮している。これに対し、ビジネスプロセスの改善が自分の仕事だと認識している日本企業のCIOが果たしてどれくらいいるか。まだまだ少ないのではないだろうか」

 「要はビジネスマインドをしっかりと持っていることが、CIOに求められる最も重要な資質だ。それはまさしく“攻め”の姿勢だが、経済情勢が厳しい状況だからこそ、あらためてメンタリティの強さが求められている」

CIOが解くべき多次元方程式

 さらに、CIOのビジネスマインドをめぐる話として、実際にあったある企業の経営会議におけるやりとりで、日高氏は次のようなエピソードを聞いたことがあるという。

 経営会議でCIOは「全社ネットワークを再構築したい」と提案し、その内容を一生懸命に説明した。ただ、それで何が良くなるのか分からなかったCEOが問いただしたところ、CIOの返答は「速くなります」。すかさずCEOが「速くなれば何が良くなるのか」と聞いたところ、CIOは返答に窮してしまった。

 なぜ、CIOは返答に窮してしまったのか。それは、ネットワークが速くなれば、どれだけビジネスに貢献するのか、というCEOが聞きたかった答えを、CIOが用意していなかったからだ。

 これをして日高氏は、「笑い話のようだが、実は似たような話が結構あるのではないか。経営にとってITは不可欠だという意識が乏しいCEOも問題だが、そんなCEOにITの効用を説くべきCIOにビジネスマインドがなければ、企業競争力のあるIT戦略など描けるわけがない」と訴えた。

 さらに日高氏は先頃、同社が開いた記者懇談会でCIOに向けてこんなメッセージを送った。

 「CIOは今、いくつかの変数からなる多次元方程式を解きながら前進することを迫られている。変数として挙げられるのは、技術革新、社会構造の変革、経済環境の変化、ガバナンス体制の変革、グローバル化の進展といった動きだ。難しい課題だが、チャレンジ精神旺盛なCIOならば、むしろワクワクしながら取り組めるのではないか。一方で、保守的でチャレンジ精神に乏しいCIOは、ますます厳しい状況に追い込まれるだろう」

 こうしたCIOの姿勢が、これまでにも増して経営に多大な影響を及ぼすことになるのは間違いない。チャレンジ精神旺盛なCIOが、これからどんどん登場してくることを期待したい。

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