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» 2012年03月15日 10時00分 UPDATE

投資対効果の測定という課題:ユーザーの「エンゲージメント」(入れ込み具合)を計測する――ソーシャルメディアマーケティングの効果測定

デジタルマーケティングの議論において最も重要なテーマの1つは、効果指標の設定とその測定方法だろう。「顧客満足度の向上」「コスト低減」「売り上げ向上」というビジネス目標の達成をダイレクトに支援できるマーケティング・アクションとその効果測定に関する最新議論を紹介する。

[谷古宇浩司,ITmedia]

「文脈」に沿った効果測定の必要性

 2012年2月13日から17日までの5日間、護国寺(講談社)と汐留(電通)でSocial Media Week Tokyoが開催されました。ソーシャルメディアの最新情報を共有する世界的なイベントの東京バージョンです。興味深いセッションがいくつもありましたが、本稿では、マーケティングの効果測定に関する最新の議論を紹介しようと思います。

 デジタル広告のテクノロジー企業Social Vibeのバイス・プレジデント コーリー・キャフリー(Corey Caffrey)氏の講演「Social Engagement Advertising and The Attention Marketplace」はソーシャルメディアを活用したキャンペーンの効果と測定方法に深く踏み込んだ内容でした。

 広告の効果を測定するのはマーケティング担当者にとって依然、非常に困難な課題です。「実践ソーシャルメディア・マーケティング」の著者であるジム・スターン氏は著書の中で、ソーシャルメディアの効果測定法を100コも挙げていますが、「文脈なくして、測定結果に意味はない」とも書いています。つまり具体的な事業目標(文脈)がなければ、測定数字に意味はないわけです。

 では、ビジネスにおける目標とは何でしょうか。スターン氏は「顧客満足度の向上」「コスト低減」「売り上げ向上」の3つに絞られると言います。どんな指標を採用するにしても、「もっと稼ぎ、出費を減らし、顧客を満足させる」という事業目標に直結させ、指標達成の推移を細かくモニターしておかなくてはいけないと強調しています。

 キャフリー氏も、講演の冒頭で「(インプレッションやCTRのような)簡単にとれる数字を計測することは、果たしてキャンペーンの効果を計測することにつながるのだろうか」という問題提起をしていました。例えば、たくさんのインプレッションを集めたことでいったい何が生じるのでしょうか。それはマーケティング担当者が望んだ結果を導くのでしょうか。

 投資対効果の測定というのは、投資の正統性を担保する手段です。ブランドの認知拡大や好感度向上などを含めた広義のマーケティング・アクションは、Webの技術革新によって、従来計測不能だったさまざまなデータを収集することが可能となり、同時に膨大なデータを分析することで、いままで以上にリアルな顧客の姿を描けるようになりました。マーケティングに対する投資の正統性を経営者(あるいは代理店ならクライアント)に訴えるためにも、事業目標(文脈)に合った指標設定と測定手法の組み合わせが必須です。しかし、現状は、理想の状態と少なくないギャップを抱えています。

ソーシャルメディア・マーケティングの指標「CPE」(Cost Par Engagement)

 マーケティング・テクノロジーに関する議論では頻繁にengagement(エンゲージメント)という言葉と出合います。前出の「実践ソーシャルメディア・マーケティング」では、「誰かが何かを気にしており、何かのやりとりをしている」という定義を採用しています。さらに、スターン氏は、“何か”に対する関わり方の価値をエンゲージメントの発展段階に沿って説明しています。

fig01 エンゲージメントの発展段階の、関わり方の価値(出典「実践ソーシャル・メディア・マーケティング」p.155)

 下から上に行くほど、関わり方の価値は高まり、エンゲージメントは発展していきます。視聴者(ユーザー)の関心を集めて、それを何らかの価値に転換する、という広告の伝統的な在り方は、メディアがテレビや新聞、看板からWebに拡大しても、その基本は変わりません。ただ、Webの場合は、視聴者(ユーザー)の関心のレベルを具体的なアクションとして観察可能にし、アクションの意味を数値に置き換えて計測ができるようになりました。そのことをマーケティング・テクノロジーの専門家はエンゲージメントという言葉で表現しているのです。

 キャフリー氏は、成功したサイトにおいてユーザーのエンゲージメントがどのような仕組みによって活性化したのかを紹介していました。ソーシャルゲーム大手zyngaはヴァーチャル・グッズの交換によって、チャリティサイトcausesは寄付の簡易化によって、それぞれ、ユーザーの関心度を高め、具体的なアクションを促進させる仕組みをサービスに組み込んでいます。

 ユーザーのエンゲージメント向上とデジタル・マーケティング施策が幸福な関係を結んだ具体的な例としては、zyngaが提供するFacebook上のソーシャルゲーム「CityVille」の事例が挙げられます。「CityVille」内で展開した『カーズ2』(ディズニーのアニメーション映画)の集客プロモーションです。

fig02 CityVilleでの『カーズ2』キャンペーン

 この事例では、CityVilleの世界観と『カーズ2』の世界観をスムーズにつなぎ合わせることで、ユーザーを無理なくチケット購入に導く仕掛けを実現しています。ユーザーにとっては、トレーラーを見ればCityCashを獲得できるうえに、好きなキャラクターを選択して、ゲーム内で車を走らせることもできます。チケット購入時には場所と日時の入力が必須なので、キャンペーン提供者サイドでは、地域および時間データを入手することができるのです。さらにここからFacebookのファンページに導線が貼られています。ユーザーのアテンションをゲーミフィケーションを効果的に活用しながら短時間でエンゲージメントに育てていく見事な仕組みだといえます。

 「Webの世界も現実の世界同様、目的や効果の不明な広告が溢れている」とキャフリー氏は言います。現状は確かにそうかもしれません。しかし、マーケティング・テクノロジーは日々進化しています。事業目標(文脈)を達成するためのさまざまな施策の効果を数値で明確化し、なおかつリアルタイムで追跡することができるようになり始めました。キャフリー氏が提唱する新しい指標「CPE」(Cost Per Engagement)の詳細な測定も不可能ではなくなる時がすぐに来るでしょう。

 次回はエンゲージメントの詳細な計測が期待される「facebook広告」のメカニズムとその可能性について考えてみたいと思います。

参考文献

  • 「ソーシャル・メディア・マーケティング 戦略・戦術・効果測定の新法則」(ジム・スターン、酒井泰介、朝日新聞出版)

谷古宇浩司

アイティメディア ITインダストリー事業部 事業開発部 チーフアーキテクト。コンピュータ・ニュース社(BCN) 報道部 記者を経て、2002年にアットマーク・アイティ入社。@IT自分戦略研究所編集長、アイティメディア エンタープライズ編集長を歴任後、現職。


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