企業価値を向上させるIT基盤構築

デスクの上にペルソナを――UX向上の取り組みユーザー本位の開発のために(2/2 ページ)

» 2012年05月11日 08時00分 公開
[白井和夫,ITmedia]
前のページへ 1|2       

UXアプローチで製品の価値そのものを高める

 ここで、UXアプローチが適用された具体的な製品を見てみよう。現在UXアプローチは、統合システム運用管理「JP1」、ストレージ管理ソフトウェア「Hitachi Command Suite(HCS)」、PC管理ツール「Hitachi IT OperationsDirector」などの製品から順次適用が始まっている。新製品「HCS V7」の開発では、米国法人である日立データシステムズとも連携し、各国のエンドユーザーから直接調査を行ない、ペルソナやユースケースなどに反映していった。その結果「HCS V7」はタスク指向のGUIを採用することで、基礎的な知識だけで使いこなせるようになったという。

 「日常の運用操作を画面上の“よく使うタスク”ボタンから選ぶだけで、操作を1/6に削減できました。また、表形式で入力していた仮想プールの領域拡張も、視覚的なシミュレーションを行いながら直感的に操作できるよう変更しています」(守島氏)

 こうした取り組みに対し、スイスの証券会社のユーザーからは「新しいHCSはとても使いやすくなった。その結果、25%のコスト削減につながった」という賞賛の声が、またオランダの銀行業ユーザーからも「わたしたちは、こんなにも甘やかされていいのか」というウィットに富んだメッセージが寄せられたという。

Hitachi Command Suiteの画面

UXによる価値創造を広げる

 ソフトウェアの使いやすさを左右するマニュアルでもUXの向上が進んでいる。

 「従来のマニュアルは辞書のように分厚い冊子を最初から最後まですべて読み通さなければシステムが使えない構成になっていました。システムは本来、お客さまの業務実行を支援するためのツールであるのに、まずはツールの勉強から入らなければ業務が実行できない――これでは本末転倒です。そこで新しいマニュアルは利用目的や場面に応じて知りたい項目を検索し、そこだけ読めば理解できるよう、大幅に改善しています」(守島氏)

 マニュアル作成においてもソフトウェアと同じペルソナとユースケースを想定した説明文の記述や運用方法の解説が行われている。マニュアルを読み進めれば、すぐに業務を開始できるよう、設計されているという。UXアプローチを適用した日立のマニュアルや拡販ドキュメントは業界内でも高く評価されており、日本マニュアルコンテスト(主催:テクニカルコミュニケーター協会)では2010年、2011年と2年連続で部門優良賞を受賞している。

 また、ソフトウェア製品の全マニュアルをインターネットで公開したことや、トラブル時などに表示されるメッセージIDの内容をWebから簡単に検索できるようにしたことも、UX向上に向けた施策の一環である。マニュアル公開サイトはスマートフォンにも対応しており、顧客やSEは重いマニュアルを持ち運ぶことなく、知りたい情報にアクセスできるようになった。

 UX設計部では、UXを向上させることにより、業務に携わる人々の作業時間やストレスを軽減し、高い生産性と満足感のある業務環境の実現に寄与できると考えているという。

 「UXは、ITが社会に貢献するために必要不可欠なものであるとわたしは信じています。これまでわれわれは、ソフトウェア製品とその関連サービスの価値を、いかにお客さま視点で強化できるかに注力してきました。今後はさらに、ハードウェアも含めたシステム全体、そして日立製作所が持つ幅広い製品群と事業分野にも、UXによる価値創造を広げていきたいと考えています」(守島氏)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ