“納品しない受託開発”をクラウドで実現したソニックガーデン田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年05月15日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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中小IT企業に適するモデルとは

 図にある一般的なIT企業のビジネス領域を見てほしい(ソニックガーデン作成)。クラウドサービス(利用型)とオンプレミス(所有型)で分けると、大手IT企業(図の大手システムインテグレータ)は企業ごとに固有のシステム構築を請け負う所有型である。一方、クラウドベンダーは不特定多数向けに汎用的なサービスを開発、提供する利用型だ。パッケージソフトベンダーは自らの企画で、汎用的なソフトを開発、販売する所有型となる。それぞれ異なるビジネスモデルなので、他の領域に移るのは容易なことではない。

ソフトウェアビジネスの分類(出典:ソニックガーデンWebサイト) ソフトウェアビジネスの分類(出典:ソニックガーデンWebサイト)

 なぜなら、今の収益モデルに大きな影響を及ぼすからだ。例えば、大手IT企業がクラウドサービスに本格進出するなら、抱えている数千人から数万人のSE集団をどう処遇するのかという問題に直面する。パッケージソフトベンダーがクラウドサービスに出たら、ライセンス販売と保守契約から収入を失うことになりかねない。躊躇して当然のことである。

 対して、ソニックガーデンは2011年10月にTIS時代に手掛けた事業を引継ぐ形で、クラウドサービスを最初から提供するのに加えて、新たに受託ソフト開発を請け負う。とはいっても、図中の軸である利用と特殊の領域、つまりクラウド提供の「納品しない受託開発」になる。中小IT企業のプログラマーが知恵を絞り、得意技を生かせる領域にもできる。しかも、この方法が定着すれば、開発の生産性が向上し、プログラマー1人が4、5社の企業と顧問契約を結べる可能性もある。

 倉貫社長は「規模拡大を図る計画はない」とし、同じような事業を展開する中小IT企業が100社、1000社と増えるようブログなどで積極的にビジネスモデルを紹介する。ソフト開発の構造改革にもつながるだろう。

一期一会

 1974年生まれの倉貫社長は学生時代にITベンチャーでプログラミングを経験し、「こんなに楽しくて、お金がもらえる。これで一生食っていければいいなあ」と思った。立命館大学大学院を修了した倉貫氏は1999年、そんな企業の1社であるTISに入社する。だが、夢とは異なり、現実は「プログラミングの仕事が面白くない。楽しくもない」。ユーザーに言われた通り、決められたものを黙々と作る作業に思えたからだろう。

 「クリエイティブな仕事ではない」。大手IT企業とITベンチャーのギャップを感じた倉貫社長は、「このままではまずい」との思いを強くしていった。「当時、外注を増やし、マネジメントのスキルを磨くことを求められた」ことで、「プログラミングができなくなる」とも感じた。しかし、プログラミングへの魅力を失ったわけではない。

 倉貫社長はその後、社内システムを開発する部署に異動し、社内向けSNSやコミュニケーションツールなどの開発を担当する。「予算を獲得し、自分たちの力で企画、開発するので楽しかった。社内の評判も良かった」という。だが、一般的にコストセンターに位置付けられたIT部門の予算は業績が悪くなると削られることがある。そこで、倉貫社長は開発チームを維持するために、開発したサービスの事業化を模索した。

 当時の経営者に直談判し、倉貫社長は「開発したSNSやコミュニケーションツールをクラウドで提供したい」、「世の中に使ってもらえるようオープンソース・ソフトにしたい」などと提案したという。承諾を得たが、社長交代などがあり、新社長と再度、話し合うことになり、新しい組織を作り、社内ベンチャーの形態でスタートすることになった。2007年のことだ。

 倉貫社長は約2年間、その事業に携わるが、クラウドサービスは「売り切って、なんぼの商売とは異なる」と独立を決意。2011年10月にMBOのような形で事業を買い取って、ソニックガーデンを開発チームのメンバー5人(その後、1人が加わる)と立ち上げる。ちょうど、TISがソランやユーフィットと合併する時期になる。今、倉貫社長は「納品しない受託開発」を広めることに注力している。

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