ストレス社会との付き合い方人生はサーフィンのように(2/2 ページ)

» 2012年05月24日 12時00分 公開
[竹内義晴(特定非営利活動法人しごとのみらい),ITmedia]
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「ちょっとしんどいな」と思ったら

 椎名さんの実体験をうかがって「本当に大変だったのだな」と感じました。このような話を聞くと、「では、うつにならないようにするためにはどうしたらよいのか」が気になりますね。ちょっとしんどいと思うとき、どのような対処をしたらよいのでしょうか。

 椎名さんに「うつにならないようにするためにはどうしたらいいですか?」と尋ねたところ、「誰もがうつになる可能性がある。頑張りすぎている自分を早く解放してあげることが一番かな」と話してくれました。

 誰もがうつになる可能性があるのならば、むやみに恐れるよりも「体とこころを休めるきっかけ」くらいに考えておくといいのでしょう。そして、もし、「ちょっとしんどいな」と思ったら、頑張りすぎている自分を解放してあげましょう。

 また、椎名さんの話で驚いたのは「うつになって幸せ。いい経験だった」という言葉でした。「ボクの周りには仕事上うつになったことがあるという人が少なくないけれど、その人たちに共通しているのは『みんな、いい経験だった』と言うことだよ」と。これをご覧の方の中には、今まさにうつと向き合い、しんどい思いをされている方もいらっしゃるかもしれません。あなたにも「本当にいい経験だった」と言える日が1日も早く来ることを願ってやみません。

疲れている仲間への対応

 私はちょっとしんどいときの対応には、自分自身で行えるものと、職場の協力が必要なものがあると考えます。

 しんどいときにしんどいと思えればいいのですが、実際は自分ではなかなか気が付かなかったり、気付きたくなかったりします。

 NPO法人しごとのみらいで、2011年に行った「仕事のやる気とメンタルヘルスに関する実態調査」によれば、回答者の8割が「職場で悩みを抱えている」と回答し、このうち相談相手がいない人は4割、全回答者の中で、仕事を通じて精神的な不安を抱いた経験がある人は9割にも上りました。

 また、仕事の「やる気」や「悩み」に最も影響を与えているのは何かを伺ったところ、多くの方が「職場の人間関係」と回答しました。

 ストレスを抱える原因の多くが職場の人間関係であるならば、しんどい仲間を増やさないためには、職場のコミュニケーションがカギとなりそうです。

 そこで、あなたの仲間が疲れているように見えるときどのように接したらよいのか、ポイントを考えてみました。

 「具体的に何かできる」とは思わない

 「しんどい仲間にどのように接したらいいか分からない」「怖い」という声をよく耳にします。具体的な対処には専門的な知識やコミュニケーションのトレーニングが必要な場合がありますから、「具体的に何かしなくては」と気負わなくても大丈夫です。

 「ねぎらいのコミュニケーション」をしよう

 専門的知識はなくても「言葉」で仲間の役に立ちたいという気持ちを伝えることはできます。そのときのポイントは「今までご苦労だったね」「ここまでよく頑張ってきたね」などの「ねぎらい」です。ねぎらいには、仲間のことを気にかけ、尊重しているメッセージを伝える力があります。

 自分のことを気にかけてくれる人がいると分かれば、孤独感を抱かずに済むでしょう。

 上司が積極的にスタッフの話を聞く時間を作ろう

 かつて私がしんどかったとき、困っていることや愚痴を聞いてくれる上司がいました。その上司がいてくれたおかげで、私はずいぶん楽になれました。何でも話せる上司がいるのは大切ですね。

先にご紹介した「仕事のやる気とメンタルヘルスに関する実態調査」で、「悩みを抱えたとき、誰に相談しているか」という項目を作りました。最も多かった回答は「知人・同僚に相談する」「誰にも相談しない」でした。一方、「本当は誰に相談したいか」という項目で最も多かった回答は「上司」でした。みな、本当は上司に相談したいということです。「上司に悩みを聞いてほしい」と願っている社員が本当に悩みを相談できたら、それだけでずいぶん気が楽になるでしょう。

 私もリーダー時代、スタッフの話を聞く時間を1カ月に1回は必ずとっていました。仕事の話に加えて、家族のことなどいろんな話を聞き、相談にのりました。話を聞く時間を創るだけでずいぶん職場の雰囲気が変わった経験があります。


 現代は厳しい経営環境などもあって、一人ひとりがさまざまなストレスを抱えています。しかし、メンタルヘルスの検査をして医師の診断を仰ぐことも大切ですが、その前にできることがいろいろあるのではないでしょうか。

 私は、メンタルヘルスの検査を義務化することよりも、職場のコミュニケーションを改善していくことの方が大切だと思っています。なぜなら、検査はうつまたはその可能性がある人を見つけ、対処する「事後対策」ですが、ストレスを抱える多くの原因=職場の人間関係の改善は、根本原因を改善できる「事前対策」だからです。

 歯を健康に保つなら定期的な検査も大切ですが、本当に大切なのは歯を磨くことのはずです。うつに「なった後」ではなく、「なる前」の対応が重要なのではないでしょうか。

 私のメッセージが、時代の荒波の中でしんどいと感じている、同僚とあなたとの関わり方の一助になれば幸いです。

著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)

 竹内義晴

NPO法人しごとのみらい理事長

1971年生まれ。自動車メーカー、ソフトウエア開発会社を経て、現職。プレッシャーの多い職場で自身が精神的に追い込まれる中、リーダーを任される。コーチングや心理学の手法を実践しチーム変革に成功。難しいコミュニケーションスキルを誰もが使えるようにした「トライアングルコミュニケーションモデル」を考案。思考法やコミュニケーションをテーマとした研修・セミナー・講演・執筆活動を行う。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。

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