「思いやり経営」のススメ松岡功のThink Management

産学・NPO連携の民間団体が先頃、「思いやり経営」という観点で評価した指標や企業ランキングを発表した。企業のマネジメント力を知る手立てとして注目されそうだ。

» 2012年05月24日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

4つの徳性指標からなる「思いやり経営」

 産学・NPO連携の民間団体である「思いやり経営コンソーシアム」(委員長:金子郁容 慶應義塾大学教授)が先頃、企業を持続的成長などの観点で評価した「思いやり経営指標」と、それに基づく企業ランキングを発表した。

 まず、「思いやり経営」とは、企業単独のイノベーションなどの能力だけでなく、外部との共創による効果や、社会への働きかけから提供される影響の相乗効果も効果的に活用し、未来を先行して切り開き、持続的成長を行う経営モデルのことだ。同コンソーシアムでは、これを「日本発グローバル経営モデル」と位置付けている。

 そして思いやり経営指標とは、思いやり経営の観点から、組織の持つイノベーション力を総合的に数値化したものだという。具体的には、「自由創発(情熱)」「共創調和(気配り)」「社会座力(務め)」「未来先取(先見)」といった4つの徳性指標と、それらを合計した「総合指標」からなる。

 4つの徳性指標をもう少し紐解くと、自由創発(情熱)は組織に所属する個々人が持つ創造力を表す指標、共創調和(気配り)は個々人の連携によるチームの力を表す指標、社会座力(務め)は社会に対する務めが企業の組織イノベーション力を高めるという視点での指標、未来先取(先見)は未来を洞察する力を表す指標だとしている。

 思いやり経営指標のベースになっているのは、玉村雅敏 慶應義塾大学准教授が組織イノベーションモデルとして提唱した「雑木林イノベーション理論」である。この理論に、これまでのブランディングやCSR(企業の社会的責任)の事例など、企業の実践活動の研究成果を取り入れて仮説を組み立て、実際に企業で働く社会人やこれから就職する大学生を対象に調査を行い、その結果を分析して生まれたのが思いやり経営指標だという。

 ちなみに雑木林イノベーション理論とは、企業と社会やステークホルダーの関係性をダイナミックな生態系としてとらえたものである。その中で生まれる多様なイノベーションが、企業を活性化させていくという考え方だ。

思いやり経営指標に基づく企業ランキング

 この思いやり経営指標に基づく企業ランキングの総合トップに輝いたのは、アップルジャパン。続いて、本田技研工業、グーグル、オリエンタルランド、ファーストリテイリング(ユニクロ)が上位5位に名を連ねた。

 この調査については、国内184組織の企業・団体に所属する2850人に2011年11月、インターネットを通じて回答を得たという。同コンソーシアムのサイトでは、80位までのランキング表が掲載されているので、ご興味のある方はチェックしていただきたい。ここでは上位5位に名を連ねた企業について、それぞれの評価内容を紹介しておこう。

 まず、総合1位のアップルジャパンは、自由創発(情熱)1位、共創調和(気配り)2位、社会座力(務め)28位、未来先取(先見)1位と、4つの徳性指標のうち2つで1位を獲得。個別のコメントでも「好奇心旺盛でチャレンジ好き」「発想力や創造力の豊かさ」「商品・サービスに信念がある」「世の中を元気にしている」などと評価の高さがうかがえた。

 総合2位の本田技研工業は、自由創発(情熱)5位、共創調和(気配り)6位、社会座力(務め)1位、未来先取(先見)4位と、1位のアップルとは異なり、社会座力(務め)の高さが際立った。個別のコメントでも「大学やNPOなどとの連携に熱心」「業績だけでなく社会のためという視点がある」と、アップルとは異なる評価があった。

 総合3位のグーグルは、自由創発(情熱)4位、共創調和(気配り)12位、社会座力(務め)20位、未来先取(先見)2位と、アップルと同じく自由創発(情熱)と未来先取(先見)の評価の高さが特徴的だ。個別のコメントでは「部門間の壁がなく自由」との声があった。

 総合4位のオリエンタルランドは、自由創発(情熱)2位、共創調和(気配り)1位、社会座力(務め)4位、未来先取(先見)29位と、自由創発(情熱)と共創調和(気配り)で高い評価を得た。個別のコメントでも「商品・サービスの独創性」「社員に、らしさがある」「社員が夢を持って行動している」と、高い評価の指標を裏付ける内容が目立った。

 そして総合5位のファーストリテイリング(ユニクロ)は、自由創発(情熱)6位、共創調和(気配り)4位、社会座力(務め)45位、未来先取(先見)8位と、4位のオリエンタルランドと同様、自由創発(情熱)と共創調和(気配り)の評価が高かった。個別のコメントでも「顧客の声を熱心に聞く」「人々に元気を与えている」と、共創調和(気配り)の高評価を裏付ける声が多かった。

 同コンソーシアムでは、これら上位5社が業績においても高い収益性を示していることにも着目。思いやり経営は、企業の収益性においても貢献する経営モデルであることが示唆される、としている。

 この調査は今回が初。同コンソーシアムでは今後も継続・拡大していく構えだ。企業のマネジメント力を評価する指標ともいえるだけに今後も注目しておきたい。

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