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» 2012年05月25日 08時00分 公開

えっホント!? コンプライアンスの勘所を知る:高速ツアーバス事故にみるコンプライアンスの意味 (3/3)

[萩原栄幸,ITmedia]
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利用者、そして事業者

 「利用者にも責任がある」――とは言わない。また、旅行企画会社や運行会社にコンプライアンスがあればというつもりもない。この部分は微妙な問題を含むのだが、資本主義では「低価格」「中間価格」「高価格」が認められている。規制緩和で国が考えるべきところは「低価格」であっても、「安心・安全のバーをクリアしなければ厳罰に処す」というところであり、もしくは業界団体の役目でもあるはずだ。

 かつてのタイタニック号の沈没事故で、救命ボートは一等・二等船室の乗客だけに準備されていたようで、当時の資料によれば、船員が「三等の人間は助けるべきではなかった」という差別発言をしたこともあったようだ。この事故が起きたのは1912年、ちょうど100年前である。今の高速ツアーバスの市場は、まさしくタイタニック号のこの状態に似ているかもしれない。一部の評論家は「三等船室が嫌なら価格を考えて乗船しろ」という。それは違うだろう。安さに魅力を感じ、だが日本の中で運行しているのだから最低の安全基準は満たされているはず――多くの利用者がそう考えているのが実態ではないだろうか。

 運行会社――ここがある意味で根幹になる。事故を起こしたバスの運行会社の責任は重大だ。ただ言えることは、どの中小零細の運行会社にもその可能性があったということである。本連載でも筆者は繰り返し伝えしているが、「コンプライアンス=法令順守」というのは間違いである。

 今回の事故では運行会社が法律さえ守っていれば良かったのだろうか。確かに法律には甘い点があり、「法律さえ守っていれば何をしてもいい」と安直に考えしまうかもしれないが、それは絶対に危険なのである。

 なぜ大手の運行会社は670キロよりも短い距離、もしくは距離を問わず深夜の走行では全て2人体制にしているのか。それは法律以前の問題として、そうしないと「安全運行」というコンプライアンスを全うできないからだ。ある意味、法律は最低限のコンプライアンスであり、自社としてのポリシーや経営の理念を全うしようとするときに、どう自分たちの行動を実施すべきか、そこには利益最優先ではない、経営理念や従業員の社会貢献などが強く反映されている。

 中小零細企業の中には、理念や社会貢献より「利益」というところもある。その歯止めが法律であり、「プロ」としての感性やプライドかもしれない。

 「私ならここは絶対に2人にしないとリスクが高い」――そう判断し、それが会社のコンプライアンスとして有効に機能する仕組みを経営者と社員が一丸となって築く。とても難しいかもしれないし、筆者の机上の空論かもしれない。だが、ほんの少しでもできるところから改善していく、それが本当のプロだと思う。

 最後に今回の事故でお亡くなりになられた7人のご冥福をお祈りいたします。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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