“ビッグデータ”が経営を変える

ニューヨーク市に学ぶ大規模データ活用の真髄(2/4 ページ)

» 2012年06月06日 08時00分 公開
[工藤卓哉,アクセンチュア]

リアルタイム処理でなければ意味がない

 さて、ブルームバーグ市長が導入している大規模データ処理の一例として、市の交通局が実施しているセンサーデータによるリアルタイムな駐車場空き情報配信がある。これによって、ドライバーが空き状況の確認をするために、わざわざ現場で運転しながら目視して悪戦苦闘するという非生産性を回避するだけでなく、予想外の渋滞を回避することにもつながる。ニューヨークでは同時多発テロの発生以来、大統領の訪問時や、各国首脳がそろう国連総会などのタイミングで、警備の安全上の理由から、行政機関は事前に通知することせず突然一般車両が進入できないように一斉に重点区画を閉鎖したりして、大渋滞を招くことがある。筆者も8年近くニューヨークで生活し、車で通勤する時にマンハッタンでこうした場面に何度か出くわした。

 このような時、従来の定点センサーを前提とした過去履歴データ型の時系列予測モデルでは、こうした混雑状況などを即時検知することは不可能である。一方で大規模データのリアルタイム処理を前提にしているセンサーデータによる判別配信情報であれば、そうした傾向は即時に補正、配信することが可能である。

 東日本大震災の際、センサーデータ(VICS:Vehicle Information and Communication System)を前提とした道路混雑状況把握システムはあまり役に立たなかったといわれている。私の車にもカーナビに標準搭載されていて、通常時の到着時刻予測に便利であるが、予測の源泉となるデータの範囲ならびに分量(カバレッジ)は平常時を前提としている。つまり、平時なら十分な情報量であるが、有事の人の行動パターンは異なるため、ひとたび有事が発生すると、この予測モデルは機能しなくなる。有事の想定カバレッジが低いため、ひとたび予想以上の混乱が起こると、VICSを前提として定点センサーを配備する主要道路以外の即時情報を加味することができず、結果としてドライバーの大混乱を招いてしまうのである。

 現在日本では、これを回避するために、定点のセンサーデータに加え、実際に動いているタクシーなどの自動車に配置したセンサーで、車両速度や移動の地理測位情報から道路交通情報を補正、推測させる仕組みを構築させている。また、こうした仕組みが飛躍的なインメモリの処理技術に支えられていることも見逃せない。定点にない自動車自体のセンサーは、迂回などを積極的にするタクシーの運行状況から、かなり高い確度で幹線道路以外の混雑状況を補足することが可能となっている。また、データが爆発的に増える中、CEP(複合イベント処理)やストリーム処理に埋め込んでいくロジックとして、条件付き確率モデルを用いた線形分類器に代表される統計モデル手法が、自然言語処理の世界から徐々に高度化して、近年ビッグデータの解析に対する一つの解として注目を集めている。

駐車場空き情報配信システムの活用イメージ(出典:アクセンチュア) 駐車場空き情報配信システムの活用イメージ(出典:アクセンチュア)

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