コンプライアンスにみる公務員と民間企業の違いえっホント!? コンプライアンスの勘所を知る(2/2 ページ)

» 2012年06月08日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
前のページへ 1|2       

コンプライアンス視点での違いとは何か?

 公務員と民間企業の違いを探ることはかなり難しい。そこでコンプライアンスの視点にしぼって解説してみたい。

 まず大きく異なるのは、相手とする「お客様」の違いだ。「民間企業」における狭い意味での「お客様」は、例えば「レストランに来て下さるお客様」「会社が製造している冷蔵庫を購入・利用して下さるお客様」である。もしレストランを経営する企業が四国地方には進出していなければ、四国に住む人は「お客様」にはならない。一人当たり単価2万円が最低ラインという高級レストランなら、年収200万円以下の人は「お客様」のターゲットから外れるのが普通だろう(2万円の食事を頻繁にはしないということ)。

 ところが公務員の「お客様」は、国家公務員なら「国民全員」だし、地方公務員なら「○○県民(市民、町民、村民)」であり、赤ん坊から老人までと幅広い。民間企業は「営利目的」から離れることができない。利益がなければ破たんしてしまうからであり、そこにどんな理屈を並べても意味がない。民間企業は自らの「お客様」の範囲だけを担当するということなのである。

 業務面でみれば、特殊なケースを除いて公務員には「営業活動」がほとんど存在しないことだ。民間企業ならば商売を拡大させるために「営業」をする。誤解を招くかもしれないが、公務員の場合はある意味で「営業」が必要ないか、あってもさほど重要な業務ではない。公務員には「営利目的を達成できなければ生活できなくなる」という悲壮感が民間企業ほどには無いという意味だ。

 それではいけないと、公務員の世界では本来の意味での「住民サービス」に立って、広報や営業といった活動が従来に比べて大きな存在になりつつあるのも事実だ。

 両者にはこういう違いがあり、その結果から当然ながらコンプライアンスの視点からも明らかな違いが出てくる。民間企業が良くて公務員が悪いということではなく、事実としての双方の違いを述べていることをご理解いただきたい。

 こう考えると、営利活動を念頭に置く必要のないコンプライアンスと、営利活動をすることに自身の存続意義がある場合のコンプライアンスは、そもそも土壌も考えも違う。一緒に議論するには、まずこういった点を考慮しておかないと、とんでもない方向に行きかねない。

結論

 「コンプライアンス」という言葉を思い浮かべたときに、自分の立ち位置がどこにあるかをきちんと認識していなければ間違ってしまう。そこに陥りやすいのが、「公務員」としての立場だ。単純に公務員と民間企業という切り口だけではなく、それぞれの土壌や経営者のポリシーなどが複雑に絡まり遭って、そうした中から自分たちにとってベストなコンプライアンスがはっきりと見えてくるのだと思う。その入り口の一つが「公務員と民間企業との違い」ということだ。

 コンプライアンス関連で迷ったり悩んだりした際には、いったん自分の「立ち位置」を再認識してみてはいかがだろうか。コンプライアンスとは自分の家族、会社、そして自分自身を守るためにあり、社会に貢献、迷惑をかけないという「結果」につながるものだと筆者は考える。そのためには、自分の立ち位置を見失わないことが大切だ。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ