まだ夢だった――モバイルコンピューティングの夜明け前モバイルワーク温故知新(2/4 ページ)

» 2012年06月12日 08時00分 公開
[池田冬彦,ITmedia]

携帯電話のデジタル化とデータ通信の幕開け

 アナログ方式による音声通信がモバイルの主役だった時代は、そもそもモバイル環境を用意すること自体が極めて特殊であり、データ通信をしたいと思ったら、「音響カプラー」という特殊な変換装置が必要だった。その状況を変えたのが携帯電話のデジタル伝送化だ。

1993年から開始されたPDCのデジタル方式に対応する最初の携帯電話、デジタルムーバシリーズがリリースされた。出典:NTTドコモ

 NTT移動体通信網は第1世代のアナログ方式に代わる「PDC(Personal Digital Cellular) 」と呼ばれる通信方式を採用し、当時のデジタルホン、ツーカー、デジタルツーカーなどの各社もこの方式を採用した。また、当時の日本移動通信とDDIセルラーグループは「cdmaOne」という通信方式でサービスを開始した。

 デジタル化によって、携帯電話を利用するデータ通信の道が開けた。デジタル通信方式に変更されたので、アナログ変換を行うことなく直接デジタルデータを伝送できるようになったのだ。

 とはいえ、デジタル化がスタートした1993年時点でも現実的には携帯電話を使ってデータ通信を行うことは極めてまれだった。PCカードスロットやRS-232Cというインタフェースを使ってPCと携帯電話を接続することはできたものの、通信先はもっぱら「パソコン通信」のホストを使ったメールのやりとりなどがメインであった。

 通信速度は1995年に9600bpsに引き上げられたが、やはりテキストベースのメールのやりとりなどが中心だった。データ通信サービスはまだなく、音声通話と同じ時間課金であったため、通信料金が莫大なものとなり、利用者はさほどいなかった。このような方法で通信を実践する人は、黎明期においては元祖モバイラーと言うことができるだろう。

 携帯電話を使ったデータ通信の草分けとなったのは、1996年にNTTドコモの「DoPa」という高速パケット通信サービスだ。このサービスは、現在のデータ通信サービスの元祖とも言えるもので、データ量(パケット数)に応じて課金を行う従量課金制が採用され、長時間接続となりがちなデータ通信に適する料金体系だった。

NTTドコモがサービスを開始した「DoPa」の利用イメージ。当時としては画期的なIP網を使ったパケット通信サービスだった

 主要なプロバイダーがDoPaに対応しており、VPNによるリモートアクセスや、専用線経由で会社のサーバやインターネットに接続できた。しかも、通信速度は最大28.8kbpsと、当時としては高速だった。

 ただし1990年代の中期〜後期はまだインターネットの黎明期であり、高額な専用線でWAN接続を行っていた企業や、インターネットメールなどを使っている企業は、大企業の一部に限られていた。料金もパケット課金とはいうものの比較的高く、DoPaユーザーについても、当時は先進的なユーザーに位置付けられていた。

第2世代の携帯電話とPHSデータ通信の速度比較。90年代はPHSの登場まではDoPaの通信速度が最速であった

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