まだ夢だった――モバイルコンピューティングの夜明け前モバイルワーク温故知新(3/4 ページ)

» 2012年06月12日 08時00分 公開
[池田冬彦,ITmedia]

携帯電話がない時のモバイル利用

 携帯電話によるモバイル通信の黎明期は、携帯電話そのものの利用料金が今よりもはるかに高く、誰でもが携帯電話を持つ時代ではなかった。当然ながら携帯電話のない人がモバイル通信を行うのは非常に難しいことだった。

モジュラージャックとISDNジャックを備えたNTTの「ディジタル公衆電話」。携帯電話を持たないユーザーが外出先から通信するための貴重な存在だった。出典:NTT東日本

 しかし、そんな人々にとって貴重だったのが、モジュラージャックを備えたグレー色の公衆電話だ。外出先からどうしてもPCでメールを送信したい――こんな時にはモジュラーケーブルで公衆電話と接続し、PC通信のホストやインターネットに接続して通信を行うことができた。

 また、当時はインターネット対応ホテルなどもほとんどない。出張先のホテルから会社にメールを送りたい場合などは、ホテルの部屋の電話機のモジュラージャックとポータブルモデムやカード型モデムとを接続し、ダイアルアップ接続でインターネットプロバイダーやPC通信のホストに接続していた。

 インターネットが普及する前の1990年代前半〜中期は、もっぱらPC通信のメールがデータ通信の主役だった。特に米国などへの海外出張の多いユーザーに人気だったのが「Nifty-Serve」というサービスだ。

 このサービスは、米国の「CompuServe」と連携しており、米国のアクセスポイントに接続すれば、CompuServeからNifty-Serveのユーザーあてにメールを送信できたので、電話の国際料金がかからなかったのだ。筆者も米国取材の折には幾度となくお世話になったものだ。

PC通信大手の1つだった「Nifty-Serve」は、インターネットが登場する前の時代では、メールによるコミュニケーション手段として数多くの企業ユーザーに利用されていた。出典:ニフティ

 ただし、当時の通信速度は2400〜9600bps程度と非常に遅く、大きめの画像を送信するのに10分〜20分もかかっていた時代である。そのため、用途はテキストベースのメール連絡がメインであり、比較的軽い添付データをやりとりする用途にも使われていた。今のように、デジタルカメラで撮影した写真データを転送するといったことさえ、とても難しい時代だった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ