アジアに開く 沖縄IT産業の未来

沖縄がアジアの中心になる日アジアに開く 沖縄IT産業の未来(2/2 ページ)

» 2012年06月21日 08時30分 公開
[伏見学,ITmedia]
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全国ワーストからの脱却を図る

 現在、沖縄が注力産業として掲げているのが「観光」と「情報通信(IT)」である。観光産業は、本土復帰直後から沖縄のメイン産業として着実に成長を続けてきた。観光客数の推移を見ると、1972年は44万3692人だったが、早くも1975年には100万人を突破。2011年は547万9100人の観光客が沖縄を訪れており、観光収入は3734億6400万円に上る。

沖縄の観光客数と観光収入の推移(出典:沖縄県観光政策課) 沖縄の観光客数と観光収入の推移(出典:沖縄県観光政策課)

 また、アジアからの訪問者も増加している。それに伴って、中華圏における週あたりの航空便が前年の18便から40便に、台湾からのクルーズなどの寄港回数が週8回から14回へと増えており、今後もその流れは加速するとみられる。

 一方、IT産業への取り組みに関しては、1998年9月に沖縄県が策定した「沖縄県マルチメディアアイランド構想」によって、初めて沖縄のIT産業発展に特化した方針が打ち出された。それを受けて、2002年には総合的な計画として「沖縄振興計画」が国によって策定され、沖縄におけるIT産業の基本施策と方向性が示された。

 具体的に、沖縄振興計画では3つのステップに基づきIT産業の成長を促している。第1段階は情報サービス事業、第2段階はWebやゲーム、CG、アニメなどのコンテンツ制作事業、そして第3段階はソフトウェア開発事業である。情報サービスの中心であるコールセンター、あるいはビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)は今や沖縄のIT産業をけん引する分野に育ったが、背景には県や国による積極的な企業誘致が大きい。その最大の目的は雇用の創出である。

 以前から沖縄の雇用問題は深刻だ。総務省が発表した直近のデータを見ても、2012年1月〜3月期の完全失業率の平均値で沖縄は7.1%と全国でワースト。とりわけ若年者(15〜29歳)の未就業がかねてから強く問題視されていた。そうした雇用問題を解消する1つの施策として、コールセンターなどでの求人の拡大が沖縄のIT産業における重要な役割となっていた。

 その成果はどうか。2011年までの10年間で誘致したIT企業の数は237社、新たに2万1758人の雇用が生まれた。中でもコールセンターおよびBPO関連では雇用者数が1万5000人に上った。このように雇用創出という点では、一定の成功を収めたといえるだろう。ただし、コールセンターで働く社員の離職率の上昇や仕事に対するモチベーションの維持などが新たな課題として浮上してきており、これらの解決に向けた取り組みが今後、企業や行政において大切になってくる。

IT産業を日本とアジアの架け橋に

 そして今、沖縄の官民が連携して重点的に取り組んでいるのが、業務系や組み込み系などのソフトウェア開発である。取り組みの方向性として、現在、日本企業が中国やベトナム、インドネシアなどに委託するオフショア開発業務を、“ニアショア開発”という形で沖縄に案件を持ってきたいという狙いがある。

沖縄IT津梁パークの概観(同Webサイトより) 沖縄IT津梁パークの概観(同Webサイトより)

 その実現に向けた取り組みの1つが、2009年にうるま市に開所した「沖縄IT津梁パーク」だ。「津梁」とはアジアとの架け橋を意味する言葉で、同パークは、沖縄が国内外のIT関連産業(高度ソフトウェア開発など)の一大拠点になることを目指し、日本やアジアに必要なIT人材の育成などに努めていく。

 また、これらの3つの推進事業を支える「第4の柱」として、通信サービスやデータセンターといったITインフラ基盤の構築も大きなテーマとなっている。代表的な例として、沖縄と香港を高速通信回線でつなぐ「GIX(グローバル・インターネット・エクスチェンジ)」などがIT産業のアジア展開における基盤として重要になるとみられている。

 沖縄のIT産業の推進に向けて、行政はこの10年間で施設設備や人材育成、通信コスト支援などIT関連施策事業費として総額423億円を投じてきた。また、今年度の沖縄振興特別推進交付金事業としてIT関連で約28億円の予算を確保している。重要なのは、投資によっていかに新たなビジネスを生み出し、地場に根付いた沖縄ならではのIT産業を作り上げていくかという点にある。まさにその真価が問われつつあるのだ。

 本特集では、アジアの架け橋となるべく動き出した沖縄のIT産業の現状を伝えるとともに、日本経済再建の起爆剤としての可能性を探る。次回以降では、アジアに目線を向けた行政の具体的な取り組みや、グローバル展開を図る現地IT企業の動向を追う。

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