経験や勘では勝てない、「マネーボール」が物語る洞察のチカラビッグデータいろはの「い」(2/2 ページ)

» 2012年06月27日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
前のページへ 1|2       

リアルタイムの異常検知が人命を救う

 あらゆる分野でデータの爆発が進んでいる。医療分野もそうだ。医療機器や各種のセンサーは、もはや人が判断できる容量を遥かに超えたデータを生み出すが、これらのデータをコンピュータを駆使して瞬時に分析できれば、より多くの人命が救われる。そう考えたのはカナダのトロント大学教授、アンドリュー・ジェームス氏だ。

 早産や何らかの疾患を抱えた赤ちゃんを治療するNICU(新生児特定集中治療室)では、心拍数・呼吸・血圧・体温をはじめとするさまざまなバイタルサイン(生体情報)を把握し、異常がないかどうかモニタリングすることが極めて重要だ。見るも痛々しいが保育器の中の小さな身体にはさまざまなセンサーがつなげられ、刻々とデータを収集する。その数は毎秒1000を超えるという。仮に医師がタブレットデバイスでそれら数値の推移を見られたとしても、異常を検知して迅速な処置が取るには限界がある。

 同大学ではIBMワトソン研究所の支援を仰ぎ、HadoopベースのInfoSphere BigInsightsとデータウェアハウスアプライアンスのNetezzaを活用してさまざまなバイタルサインの相関関係を深く分析し、例えば、心肺停止に結び付く兆候を発見する。こうして得られた分析モデルと、赤ちゃんのバイタルデータと突き合わせてパターン分析するわけだが、医療機器やセンサーのデータは、刻々と発生し、蓄積してから分析するのでは追いつかないし、それでは手遅れになりかねない。膨大なデータの流れをリアルタイムで処理(フィルタリング)するInfoSphere Streamsも採用され、医師が早期に処置を施すことができるようになったという。

「つぶやき」の分析が新たなサービスを

 ビジネスでも膨大なビッグデータの活用は新たなサービスを生み出している。

 カブドットコム証券は、ライバルの大手ネット証券と同様、コモディティ化と個人投資家による株式売買の減少が課題となっている。手数料が厳しい価格競争に晒される中、既存サービスを洗練させるだけでなく、競合他社にはない、全く新しいサービスの提供が求められていた。

 彼らが目を付けたのが、消費者一人ひとりの考えや感情が行き交うソーシャルメディアだ。Twitterだけでも1日に億単位ものつぶやきがあり、かつて存在したことがない、「個」の気持ちが瞬時に流れる巨大なデジタルインフラが構築されつつある。こうした「つぶやき」と個別の株式銘柄の相関関係を分析することで、投資家に参考になる情報を提供できると考えた。

 先ずは手始めに膨大なソーシャルデータの書き込みを一括して処理するため、HadoopベースのInfoSphere BigInsightsと自然言語を分析するIBM Content Analyticsをクラウド環境で稼働させ、約3600銘柄に関連する3400万ツイートを分析、実際の株価の動きとの相関関係を探ることにした。

 もちろん、同証券には社内で蓄積してきた自前の分析データや顧客のデータがある。これらのデータとの掛け合わせが、銘柄選びや売り時・買い時の提案には欠かせない。また、つぶやきと株価の動きの相関関係を評価した結果を再度つぶやきの分析にフィードバックし、精度を高めていく仕組みも重要だ。

 カブドットコム証券の取り組みからは、膨大なソーシャルデータを分析し、社内の既存データと掛け合わせ、相関関係を探るというビッグデータ活用のひとつの形が見えてくるが、ビッグデータを分析するシステムをどのように構築し、既存システムと連携させるのかは十分に考えなければならないだろう。

 左は、ビッグデータ分析のためにIBMが提供しているプラットフォームを図にしたものだ。中核となるエンジンは3つあり、左から膨大な非構造化データを高速処理するHadoop、時々刻々と生み出されるデータをリアルタイムで処理していくストリームコンピューティング、そして構造化データを高速処理するデータウェアハウスが並ぶ。具体的にソリューションには詳しく触れないが、用途に応じたエンジンを組み合わせることに着目してほしい。

 それは、トロント大学の新生児医療プロジェクトでも同様だ(前出の図を参照)。ビッグデータを構造化データと非構造化データに分けて処理し、さらに連続して流れるデータと蓄積されるデータも分けてシステムを構築していることに気づくだろう。既存システムを生かしながら、膨大なビッグデータの活用に取り組むためのアプローチとしては理にかなっている。

関連キーワード

Big Data | 風力発電 | IBM | 医療 | IBM InfoSphere


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ