ロマネ・コンティの魅力松浦尚子のワイン&コミュニケーション

ついに口にすることができたロマネ・コンティは、「完全な球体を想像させるバランス」でした。

» 2012年07月06日 12時00分 公開
[松浦尚子(サンク・センス),ITmedia]

 「一番美味しかったワインは何ですか?」――。時折こうした質問を受けることがあります。そんなとき、「誰とどこで、どんな風に、どんな気分で飲んだかが大切だから、一概には難しいですね」と答えます。でも、きっと期待されているのは、ちまたでよく耳にする超高級ワインなのかな、とぼんやり思っていたものでした。

 世の中でしばしば話題に上る高級銘柄。筆頭はやはり「ロマネ・コンティ」です。名前を聞いたことのある人は大勢いても、実際に飲んだ人にはなかなかお目に掛かれない、それぐらい稀少価値の高いワインです。

 価格は、年代によってさまざまで、1本50万円から200万円以上のものもあります。そんなワインですから、これまで私も口にする機会はありませんでした。ところが、とうとうチャンスが巡ってきたのです。ある一部上場企業社長の秘蔵コレクションから、大胆にも優良年である1969年、76年、85年の3本を一度に開けて飲み比べるという趣向です。

 ロマネ・コンティとは、フランス・ブルゴーニュ産の特級格付けの赤ワインで、同時にブドウ畑の名前でもあります。10世紀初頭より頭角を現し、長い歴史の中で時の権力者たちに愛されてきました。とりわけルイ15世は愛飲し、その寵愛を得ようとポンパドール夫人、ブルボン王朝の貴族であるコンティ公爵の間でこのブドウ畑の争奪戦があった逸話は広く知られています(勝利したのはコンティ公。結果、畑の名前になりました)。「神に祝福された土地」と称される、ほんの1.8ヘクタールの限られたブドウ畑からは、年平均7000本の赤ワインが生産されるだけです。

 実際に飲んだときの香りや味わい、余韻は、いわば「完全な球体を想像させるバランス」で、積年の憧れもあいまって言葉を失う感慨に浸らせてもらいました。ボトルを観察すると、そのうち1本はいったん米国に輸入され、競売を経て日本に入ってきたことが分かりました。

 工場で大量生産されたワインは、数年経てばやがて価値が下がってしまいますが、ロマネ・コンティには、揺るぎない世界唯一の特性、輝かしい歴史や憧憬といったストーリーがあり、年月を経るごとに価値は増していきます。

 私たち人間一人一人の人生がそうであるように、優れたワインは世界に1つとして同じ道をたどるものはないのです。人が対価を払うのは、ワインに思いをはせる、そんなひと時なのではないでしょうか。

著者プロフィール

松浦尚子

(有)サンク・センス代表取締役社長

ボルドー国立大公認ワインテイスター

神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。


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