「持たざるプライベートクラウド」こそが本命だITアナリストの見解(2/2 ページ)

» 2012年07月26日 08時00分 公開
[金谷敏尊(ITR),ITmedia]
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ユーザーの要望に応えるVPC

 VPCとは、パブリッククラウド基盤の上に仮想的なプライベートクラウドを構築する手法だ。仮想的にではあるが自社ネットワーク上に専用リソースプールを備えることができ、なおかつパブリッククラウドの経済合理性、財務メリット、スピード感を享受できる、いわばパブリックとプライベートのいいとこ取りをしたサービスである。OS、ハードウェア、ハイパーバイザー、管理ツールについて自社資産を持つ必要がなく、持たざるプライベートクラウドを具現化できる。最近ではクラウドへの関心の高い経営者も増え、一方で、プライベート性(セキュリティや固有要件への対応)を確保したいという意識が強い。

 また、国内でも大々的にクラウドを活用するファーストリテイリングやオリンパスといった「バーチャル・ファースト・ポリシー」をとる企業も増えてきた。その場合、新規システムだけでなく、現行稼働中のシステムについても、メリットがあればクラウド移行を検討することとなる。そうしたニーズに合致するのがVPCである。クラウド(IaaS)環境におけるVPCのポジションは以下のように示される(図3)

図3 仮想プライベートクラウドの特性(出典:ITR) 図3 仮想プライベートクラウドの特性(出典:ITR)

 VPCは確立された用語ではなく、プロバイダーによっては、「マネージドクラウド」、「仮想データセンター」、「ハイブリッドクラウドソリューション」などと称する場合もある。また、パブリッククラウド基盤をカスタマイズして提供する場合も多い。ただし、ここでいうVPCとは、DMZ上(インターネット側)ではなく、企業ネットワーク(通信キャリアによるWAN)の内側にリソースプールを配置し、非クラウド環境とのLAN接続が可能な環境をいう。セキュアな通信だけを考えれば、インターネットVPNを利用できるパブリッククラウドで事足りるが、そこへ基幹システムを収容することはあまり現実的でない。

 このため、VPCを選定するうえでは、通信キャリアのWANサービスが備わっており、ハウジングエリアとVPCエリアのLAN接続が可能かどうか(できれば同一ロケーションや同一フロア)を評価することが重要である。特に、大規模DBサーバを運用する場合、ライセンス条件や性能問題から、仮想環境やクラウド環境への移行メリットが希薄な場合も少なくない。VPCを利用すれば、Webサーバやアプリケーションサーバをクラウド移行し、DB環境をハウジングエリアに収容するといった構成が可能となり、最適なリソース配置を実現できる。

 これまでも、VPCという名称でなくとも、あるいはカタログに掲載していなくとも、同類のサービスを提供してきたプロバイダーはある。ハードウェアの仕様や機種に依存しないリソースプールをアウトソーシングの中で従量課金で提供してきたベンダーも存在する。しかし現在、ニーズの高まりを受けて、パブリッククラウドを提供してきた多くのプロバイダーがVPCのサービス開発に取り組んでいる。VPCサービスの提供は、クラウドサービスの構築実績があるプロバイダにとっては技術的に決して難しいものではない。遅からずプロバイダーのサービスメニューに充足されるようになるであろう。

 このような環境変化を受けて、ユーザー企業はこれまで以上に、クラウド活用や移行メリットを積極的に検討すべきである。特に、プライベートクラウドを構築したいけど技術力が不足する、資産を持たない方向でプライベートクラウドを実現したい、あるいはパブリッククラウドに関心があるがセキュリティが不安と考える企業にとって、VPCは有効な選択肢となるだろう。

クラウド市場はまだ伸びる

 パブリッククラウド市場がいまだ小規模であり、主流ではないと冒頭で述べたが、だからといって、市場成長力が鈍化する、あるいは早期に頭打ちになるとはITRでは見ていない。10年、20年といった長期的な視野で見たときに、継続的に成長する市場であるととらえている。1つには、パブリッククラウドが潜在的に備える圧倒的なスケールメリットが、オンプレミスとの価格競争において有利に働く可能性が高いからである。仮想化集約度の向上やハードウェアの高密度は、クラウドとオンプレミスの双方に利益的であるが、ファシリティ、クラウド管理技術、人的リソースといった要素は、規模経済性の大きいパブリッククラウドに分がある。長期的には、収容規模の大きなプロバイダーの優位性がいっそう高まるだろう。

 もう1つには、長引く景気低迷と市場競争の激化から、企業における経営資源の集中と選択がより顕著になってきた。ITを自社の中核的な競争力と位置付ける企業は少数派であり、非コア資源の外部調達と変動費化を考える企業が多く見られる。

 そして、最大の理由はVPCという現実的に基幹システムを収容可能なIaaSが台頭してきたことにある。技術的な革新こそ伴っていないが、VPCはクレジットカードで決済するようなクラウドとは一線を画したサービスである。クラウド推進派の企業に基幹システムを含めたシステム配置の現実的な選択肢を提供する点で、市場に及ぼすインパクトは決して小さくないのだ。

著者プロフィール

金谷敏尊(かなや としたか)

株式会社アイ・ティ・アール シニア・アナリスト

テレマーケティング会社にて顧客管理システム、CTI、IVR等の構築・運用に従事。営業部長、統括事業マネージャーを歴任後、1999年より現職。現在は、アウトソーシング、データセンター/BCP、システム運用管理/ITサービス管理、仮想化/クラウド管理の分野を担当し、ユーザー企業におけるIT計画立案、インフラ構想化、RFP策定/ベンダー選定、TCO分析などのコンサルティングを数多く手掛ける。主な著書に「IT内部統制実践構築法」(共著、ソフトリサーチセンター)。


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