無線LANに託された壮大な夢と未来モバイルワーク温故知新(3/5 ページ)

» 2012年08月21日 08時00分 公開
[池田冬彦,ITmedia]

公衆無線LANサービスの発展と移動体通信

 街角無線インターネットが「面展開」にこだわって実証実験を行っていた同時期に、さまざまな事業者が公衆無線LANサービスの試験運用を開始している。2001年9月には日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)とJR東日本が東京駅構内で公衆無線LANの実証実験を開始した。

 また、NTTコミュニケーションズは2001年7月、ハンバーガーショップを展開するモスフードサービスとともに公衆無線LANの実証実験「HI-FIBE」を開始した。当初は東京都内5つのモスバーガー店舗内に無線LANアクセスポイントを設置。モニターを募って、店内に設置したPCか、モニターが持ち込んだPCからインターネット接続をできるようにした。このHI-FIBEは2002年に「HOTSPOT」というサービス名で商用化され、利用可能な店舗や施設を意欲的に広げていった。

 2002年にはソフトバンク系のビー・ビー・テクノロジー(現ソフトバンクBB)とヤフーが「Yahoo! BBモバイル」(現BBモバイルポイント)という公衆無線LANサービスの実証実験を開始し、NTT-MEは「ネオモバイル(NeoMbile)」の試験サービスを開始。NTT東西も「Mフレッツ」「フレッツ・スポット」の試験提供を開始するなど、続々と公衆無線LANサービスが立ち上がった。

実証実験 成田エクスプレスの無線LAN実証実験の概要(出典:日本気象協会

 なお、この2002年は世界で初めて列車内ブロードバンドサービスの実証実験が開始されたという記念すべき年だ。この実験は「成田エクスプレス」のグリーン車にIEEE 802.11bのアクセスポイントを設置し、NTTドコモの3G回線(FOMA)を介してインターネットに接続できるサービスを提供するというものだった。FOMAの通信速度は最大384Kbps(当時の理論値)であり、これを車内で複数のユーザーが共有するために通信速度はさほど速くなかったが、移動体環境での無線LANの提供という画期的な取り組みは注目を集めた。

 さらに日本で初めての商用列車での内ブロードバンドサービスとなった、つくばエクスプレスの無線LAN実証実験も2005年からトライアル実験が開始された。当初は秋葉原から北千住までの5駅で常時インターネットが利用できる仕組みであった。このサービスは2006年に商用化され、つくば市までの58.3キロを、地下部分を含めて全区間でインターネット接続ができる本格的なサービスに成長し、移動体通信サービスの先駆けになった。

TX-2000 つくばエクスプレスの「TX-2000系」の車両が無線LANに対応している
システム つくばエクスプレスの列車内インターネットシステムの概要(出典:NTT-BP

 秋葉原〜つくば間にある20の駅、沿線には光ファイバ網が整備され、ホームの両端や沿線の中継局を含めて全65のアクセスポイントがおよそ500m間隔で配置されている。これらの電波を列車のアンテナで受信し、車内の無線LAN設備で再配信している。

 ちなみに列車内でのインターネットサービスは現在、つくばエクスプレスの他に、成田エクスプレス車内の公衆無線LANサービス、東海道新幹線のN700系車内で「N700系車内インターネット接続サービス」が提供されている。成田エクスプレスはインターネットとの接続回線にWiMAXを利用しており、東海道新幹線は軌道上の業務無線通信システムを通信経路として利用している。

 このようにオフィスや家庭内での利用がメインだった無線LANは、カフェやホテル、駅、列車内などのパブリックスペースで利用できるようになると、一気に移動時の有力なインターネット接続手段として注目され、利用者も年々増加していった。3GやPHSなどの“高価な”通信サービスに比べて公衆無線LANの利用料金は比較的安価であり、ノートPCを持ち歩いてオフィスの外で仕事を進める環境が次第に現実的なものとなった。

 さらに、後述する最大54Mbps(理論値)のIEEE 802.11gに対応する機器が普及するようになると、写真など比較的大きなサイズのファイルを転送したり、VPNで会社にリモートログインしてサーバのデータをダウンロードしたりできるなど、公衆無線LANは屋外をメインに活動するビジネスマンにとって、最も高速な通信手段として重宝された。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ