学生時代の読書が礎を作った 日本オラクル・桐生執行役員キーマン、本を語る【グローバル企業で働くということを知る3冊】(2/2 ページ)

» 2012年09月04日 11時30分 公開
[取材・文/伏見学,ITmedia]
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「フラット化する世界」

 大学時代によく読んでいたのは、世の中の潮流がどうなっているのか、これから社会はどうなっていくのか、という内容の本が多かったです。IT関連では、ニコラス・ネグロポンテの本などを読んでいました。

トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳「フラット化する世界」(日本経済新聞社) トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳「フラット化する世界」(日本経済新聞社)

 ただ、社会人になってバタバタした日々を送るにつれて、あまり本を読まなくなりました。読んだとしても仕事に直結しそうな技術書などでした。

 そうした中、ふとしたきっかけで手に取ったのが、この「フラット化する世界」でした。恐らく雑誌か新聞の書評を読んで知り、二晩ほどで上下巻を一気に読み終えました。久々に会社の仕事以外での知識欲が戻ってきて、趣味やプライベートの世界でもいろいろと吸収していくのは大事だなと思いました。

 当時いた会社でもインドや中国、西ヨーロッパに拠点を作り、当たり前のようにアウトソーシングしていましたが、そうした仕組み自体にはこれまであまり興味がありませんでした。ところが、この本を読んで「だからうちの会社はこういう戦略を打っているのか」と気付きました。自分の会社のポジショニングを把握して、どう次の手を打つかということが何となく理解できるようになりました。

 大学時代に読み漁っていた世の中の動きを知る本が、こういう風にビジネスと結び付いていくのだなと思い、そこからまた目に付いた本を買って読むようになりました。世界の流れを知っていると、例えば、自社ソリューションの新しい海外事例が出てきた際にも「あの本で語られていたことが、こうして具現化していくのだな」と実感するようになります。時代を読むためには、常にアンテナを張り巡らしておかなければならないことを再認識しました。

「ライ麦畑でつかまえて」

 最後に紹介する本は、世の中の不条理について、立ち返るときに読む1冊です。この本には、思春期の少年が成長していく過程の中で、いろいろと納得いかないことが多く、もがいている姿が描かれています。

J.D.サリンジャー著「ライ麦畑でつかまえて」 J.D.サリンジャー著「ライ麦畑でつかまえて」

 高校生のときに原書で読んだのが最初で、そのときに「phoney」という単語に強く引っ掛かりました。辞書には「いんちき、いかさま」という意味だと書かれていますが、私自身はちょっと違う意味合いにとらえています。決してポジティブではないけれども、そこまでネガティブでもない。日本語にうまく落し込めませんが。

 働いていると、“建前”や“大人の事情”など、不条理なことに直面することが少なくありません。そうした場面に出くわすときに、ふとこのphoneyという言葉を思い出します。思春期の少年から見ても世の中は不条理の集まりだということであれば、大人になって自分が今働いている場所はもっとその要素が強いはずだなと考えてしまいます。

 ただ、社会や人と人とのかかわり合いというのは、結局、そうした不条理なことも併せもちながらやっていかなければいけないことがあって、感情的に好き、嫌いだったり、白黒つけられなかったりする部分もあります。折り合いをつけながら、妥協点を見つけながら、いかに大人として社会で生きていくかということです。

 日々、「うーん、主人公の少年から見たら、おれがやっていることはphoneyなんだろうな」と思い返しながら、もやもやとしたストレスを何となく発散している部分はあると思いますね。

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