BYODやソーシャル分析は「過度な期待期」に、ガートナーが示す技術の方向性

ガートナーは、技術の方向性を共通のパターンを明示する「ハイプ・サイクル」の最新版を発表した。

» 2012年09月06日 18時56分 公開
[ITmedia]

 ガートナー ジャパンは9月6日、先進的な技術の方向性を共通のパターンを明示する「ハイプ・サイクル」の最新版を発表した。ビッグデータや3Dプリンティング、アクティビティ・ストリーム、インターネットテレビ、NFC(近距離無線通信)、ペイメント、クラウドコンピューティング、メディアタブレットが最も急成長している技術の一部との見解を示した。

 ハイプ・サイクルは、新しく革新的な技術に対するマーケットの関心がどのような状況にあるかを、共通のパターンとして明示する手段。1995年から毎年一回更新、1900以上の技術を92分野にグループ化し、その成熟度や企業にもたらすメリット、今後の方向性に関する分析情報を企業の戦略や企画担当者に提供している。

2012年のハイプ・サイクル(出典:ガートナー ジャパン)

 同社によれば、最も急成長しているとしたこれらの技術は、2011年からの動きが顕著になり、コンシューマライゼーション(ITのコンシューマ化)は今後2〜5年の間に「生産性の安定期」に達するとみる。2011年段階では5〜10年と予測していた。また、ハイプ・サイクルの中で黎明期から「過度な期待」のピーク期にある技術としては、BYOD((個人所有のデバイスを業務に使うこと)、3Dプリンティング、ソーシャル分析などを挙げた。

 だが、ハイプ・サイクルで示した個別の技術は、実際には非常に多くのものが関係して新しい機能やトレンドになっているといい、企業ではこれらの技術をセットやグループとして検討する必要があるとしている。また、こうした技術が描くシナリオと、シナリオが現実のものになる上でのポイントなどを以下のように解説している。

BYOE(Bring Your Own Everything)

ハイテク業界では長い間、いつでも、どこからでも、あらゆるデバイスであらゆるサービスと機能を利用できる環境が話題にされてきた。このシナリオを後押しする役割を果たしたのが、コンシューマライゼーションのトレンドであり、ビジネスパーソンが個人所有のデバイスを職場へ持ち込んで利用するという環境が受け入れられるようになった。今回のハイプサイクルに記載されている技術とトレンドの中で、本シナリオに該当するものとしては、BYOD、ホスト型仮想デスクトップ、HTML5、さまざまな形式のクラウドコンピューティング、シリコン負極電池、メディアタブレットなどがある。このシナリオが実現し、標準となるためには、これら全ての技術とトレンドが成熟する必要があるが、特にHTML5、ホスト型仮想デスクトップ、シリコン負極電池は転換点技術の重要な候補となる。

スマーター・シングス

インターネットに接続されたさまざまなスマートな物が世界に登場してから、10年以上が経った。スマート化され、オンライン化された物は、消費者や生活者、従業員など個人の多様な側面をサポートする役割を果たす。このシナリオの現実化には数多くの技術とトレンドが必要であり、2012年のハイプ・サイクルには、自律走行車、モバイルロボット、インターネット・オブ・シングス、ビッグデータ、ワイヤレス送電、複合イベント処理、インターネットテレビ、アクティビティ・ストリーム、マシン対マシン・コミュニケーション・サービス、メッシュネットワーク:センサ、家庭内健康モニタリング、コンシューマーテレマティクスなどが含まれている。このシナリオの成功にとって転換点となる技術とトレンドとしては、マシン対マシン・コミュニケーション・サービス、メッシュネットワーク:センサ、ビッグデータ、複合イベント処理、アクティビティ・ストリームが挙げられる。

ビッグデータと低価格のグローバル・スケール・コンピューティング

この幅広いシナリオでは分析的知見とコンピューティングパワーがほぼ無限であり、コスト効率に優れた拡張性を備えた世界が実現する。これらのリソースが利用可能になることで、企業は顧客への理解を深めたり不正行為を減少させたりするなど、さまざまな能力を高めることが可能になる。2012年のハイプ・サイクルに記載されている技術とトレンドには、量子コンピューティング、さまざまな形式のクラウドコンピューティング、ビッグデータ、複合イベント処理、ソーシャル分析、インメモリデータベース管理システム、インメモリ分析、テキスト分析、予測分析などがある。このシナリオが実現して企業、政府官公庁、消費者が利用できるようになるために必要な転換点技術は、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、インメモリデータベース管理システムである。

人と技術のコミュニケーション

人と技術のより自然なコミュニケーションが実現する世界を示すこのシナリオについて、2012年のハイプ・サイクルで必要な技術として挙げているのは、ヒューマンオーグメンテーション、立体ホログラフィックディスプレイ、自動コンテンツ認識、自然言語による質疑応答システム、音声翻訳、ビッグデータ、ゲーミフィケーション、拡張現実、クラウドコンピューティング、NFC、ジェスチャコントロール、仮想世界、生体認証、音声認識である。これらの多くは長年「先進」とされてきた技術で現在は一般的になりつつあるが、自然言語による質疑応答システムとNFCが数少ない転換点技術となっている。

次世代のペイメント環境

全ての取引が電子的に行われるキャッシュレスの世界を示すこのシナリオでは、企業は効率性と追跡可能性を手にし、消費者は利便性と安全性を手にできる。2012年のハイプサイクルでこのシナリオの一部とされている技術は、NFCペイメント、モバイルOTA(Over-the-Air)ペイメント、生体認証。より間接的ではあるものの、ペイメント環境に影響を与える関連技術として、インターネット・オブ・シングス、モバイルアプリケーションストア、自動コンテンツ認識も挙げられる。NFCペイメントとモバイルOTAペイメントが成熟したときに転換点を越えられる。

クラウド上の顧客の声から得られる新たな知見と未来

人間は元来社会的な存在であり、これが共有(しばしば公に共有)のニーズにつながっている。これによって「顧客の声」がクラウド環境に置かれ、アクセスして分析することで質の高い知見を得られる未来が創出される。2012年のハイプ・サイクルでは、これを実現する技術およびトレンドとして自動コンテンツ認識、クラウドソーシング、ビッグデータ、ソーシャル分析、アクティビティ・ストリーム、クラウドコンピューティング、音声マイニング/スピーチ分析、テキスト分析を挙げている。一方、このシナリオを阻害する可能性のあるトレンドとしてプライバシーバックラッシュ(プライバシー問題を非常に懸念する動き)と、広い領域での投資が加速するかという意味でビッグデータがそれぞれ転換点の技術になると考えられる。

自宅での3Dプリンティング

このシナリオでは、消費者は現在のデジタル写真と同じように、玩具や家庭用品などの物理的な対象を自宅で3Dプリンティングできる。3Dスキャニングとの組み合わせによって、スマートフォンで対象をスキャニングし、その複製に近いものを3Dプリンティングすることが可能になる。3Dプリンティングがニッチ市場を超えて成熟するまでには6年以上を要すると予測される。


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