新しいものを恐れるべからず、個人情報保護法とスマホの共通点“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(2/3 ページ)

» 2012年09月14日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

情報は活用してこそ価値がある

 筆者は法律の精神についてこう役員に話した。

 「たぶん、この法律に対する批判は多いでしょう。私も少しリスクが高い部分があるし、誤解されかねない部分もあると感じています。しかし法律を作成した方々の精神は理解しているつもりです。産業界の立場では合法的に個人情報を活用できることを期待していますし、法律が個人情報の活用を阻害することになるのは、作成された方々の本意ではないはずです」

 さらに、こう付け加えた。

 「読者カードを毎月集めてプレゼントもしているのに、その情報を金庫室に入れて死蔵するなど愚の骨頂ですよ。暫定的とはいえ、そういう方法は選ぶべきではありません。情報は活用してこそ価値があるものです。それができないなら、情報ではなく、産業廃棄物です。それに、統計資料の活用もきちんと議論したのですか。あなた(役員)が知らないだけで、かなり活用されているのではないですか。法律が怖いからと避けて逃げるのでは経営者としては失格だと思います。まず統計資料が活用されているかを把握してください」

 その後、役員からは「現場では思っていた以上に活用されていて、役員は皆知りませんでした。でも、どうすればいいのでしょう」と話された。それも当然のことだろう。筆者は早速、営業部での調査を開始した。

  • 本当に活用しているのか
  • 活用しているなら、どういう活用をしているのか
  • その情報は他では補えないのか

 などを調査の切り口とした。結果として、広報宣伝費を効率良く使うためには、頻繁に読者動向を把握しておく必要があり、読者カードにある情報が不可欠ということであった。その活用方法は次の通りだった。

  • 年齢は5歳単位(20〜24歳、25〜29歳など)で分けている
  • 住所は基本的に都道府県単位だが、個別では市町村単位
  • 氏名はプレゼント郵送時にだけ使う

 これらが判明したので、次の役員会には筆者も出席して、新たに提案を行った。

「企業として存続する以上、情報活用しない選択肢はあり得ない」

「今の活用がベストかという点ではもっと検討が必要。次善の策としては以下の3つを提案したい」

  1. もし読者カードを金庫室に死蔵するなら読者カード自体を廃止にする委員会を設置して、ソフトランディングできるようにする
  2. 情報活用が今のレベルで良いという結論なら、読者カードのフォーマットを次のように変更すべきである
  3. 生年月日の欄を削除し、「15歳未満」「16〜20歳」「21〜25歳」という5歳区切りの欄に「○」を付けるようにする

「住所欄はフリーフォーマットではなく、市町村名までの記入にとどめる」

「読者プレゼントは存続の可否を検討すべきで、存続するなら次の欄を新規に設ける」――「連絡先」「お名前(氏名の記載は避け、イニシャルでも苗字だけで構わない、例E・Y、山田)」、「連絡先(メールアドレス、電話番号など連絡が取れるものなら不問)

「今までの情報レベルを維持するには費用が多少かかるが、目隠しシート」の導入が最も簡単。しかし社内での運用フローを変えて情報漏えいが起きないよう物理的、論理的なセキュリティ対策が必要である。場合によっては労組との合意も必要になる場合もある」

 その後、この出版社では真剣に検討され、対処した。今では出版社によってはメールで簡単にアンケートを出す環境になったことは、言うまでもないだろう。

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