成果を生む人間関係の「グッドサイクル」と「バッドサイクル」成功するITマネージャーの「人づきあい術」

プロジェクトの成果を上げる秘策は、良い人間関係を築くこと。それをどのようにすれば実現でき、どうなれば失敗に陥ってしまうのか、ご存じだろうか。

» 2012年09月26日 08時00分 公開
[青木裕,ITmedia]

 前回はプロジェクトを働きづらいものにしてしまう、リーダーが抱きがちな「思考の枠」とその広げ方を紹介した。今回は、「働きやすいプロジェクト」をつくることが成果につながる理由について解説しよう。

 「働きやすいプロジェクト」と聞くと、仲良しクラブのようなものをイメージするかもしれない。しかし、ここでいう「働きやすいプロジェクトづくり」の目的は、メンバーと仲良くすることではなく、あくまでもITマネージャーの責務である「成果を上げる」ことにある。成果を上げるための最短のプロセスが「働きやすいプロジェクトづくり」なのだ。

 ITエンジニアの中には、何か新しいことを始めたり他人から仕事を頼まれたりした時に、その目的や理由が論理的で、なおかつ、自分が納得できなければ動かないタイプの人がいる(その代わりに一度納得すれば、最後まで粘り強く継続して取り組む)。

 だから、メンバーに「働きやすいプロジェクトをつくりましょう」とITマネージャーが声高に叫んだとしても、「なぜ」の部分がメンバーに伝わなければ、メンバーを巻き込むような活動はできない。そのことを念頭に本稿の内容をメンバーと共有してみてほしい。

 ここで1つ質問をしてみたい。

「ITマネージャーとして、もっともうまくいったプロジェクトの成功要因は何ですか?」

 どんな要因を挙げられただろうか。

 「技術力があり、業務知識の豊富なメンバーがいた」「協力的な顧客に恵まれた」「上司のサポートがあった」などかもしれない。それらの成功要因を深堀りしていくと、根底には良好な「人間関係」が存在してはいないだろうか。

 やや回りくどくなったが、つまりは「良好な人間関係」が「成果」を出しやすくするのである。

 その理由を、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「成功循環モデル」の図に見ることができる。

成功循環モデル

 「成功循環モデル」とは、組織が長期的に成功し続けるための考え方である。図にあるように、4つの質(関係の質、思考の質、行動の質、結果の質)から構成される。そして、この4つの質のうち、どの質を最初に高めるかによって成果が出ない「バッドサイクル」になるか、成果が上がる「グッドサイクル」かに分かれる。

 バッドサイクルは、「結果の質」を向上させようと、とにかく結果のみを求めることで生じる。「結果以外は全てムダなもの」と切り捨ててしまうような管理をしているケースがこれだ。

 メンバーの立場で考えると、ITマネージャーと「どうしたら納期を守った仕事ができるのか」といった相談ができないまま、「とにかく納期を守ることがあなたの仕事だ」と言われて納期を強要されるような場合である(メンバーとリーダーの関係を、SIreとクライアント、IT部門と業務部門に置き換えても当てはまる)。

 納期を強要されたとしても、一時的には「結果の質」である納期を守ることができることがあるかもしれない。

 しかし、メンバーを追い詰め、心理的に負荷をかけた状態での成功は持続しない。いずれは結果が出なくなる。プレッシャーを掛けただけで成果が出るほど、どんな仕事も単純なものではない。

 「強要された」と感じたメンバーは、結果が出ないことを他人のせいにする。すると、チームの中に対立や押し付け、指示命令が増え、「(人間)関係の質」が悪化した状態になる。

 「関係の質」を悪化させるもう一つの例としては、メンバーの存在が成果を上げるために欠かせない「パートナー」ではなく、「代替可能な下請け業者」のように扱われてしまうケースである。

 人は、相手が自分にどのような態度で接しているのかをすぐに察知する。もしITマネージャーが、「成果が出せないなら(あるいは仕事ができないほど疲弊したら)、取り替えれば良い」と考えるようでは、「人間関係」をそもそも構築できない。

 「関係の質」が悪化すると、メンバーは仕事に対して興味や熱意を失い、「納期を守ろう」という意識すら希薄になる(「思考の質」の悪化)。やがて受身になり、積極的な行動もせずに、チームの状態をどこか他人事のように捉える空気がまん延する。課題解決に向けた行動を積極的に取らなくなる(「行動の質」の悪化)。行動しなければ、結果が出るはずもない(「結果の質」のさらなる悪化)。

 一方のグッドサイクルは、「関係の質」を高めることから始まる。「関係の質」を高めるには、お互いを尊重した上でITマネージャーとメンバーが理解し合い、課題に対して一緒に考えるようにするのである。

 「尊重する姿勢」とは、バッドサイクルのところでも触れたが、メンバーを「欠くことのできないパートナー」ととらえて接することだ。

 しかしITマネージャーの中には、メンバーを「できない人」と見てしまう人がいる。「自分は優秀だからこそITマネージャーのポジションにいる」と考え、メンバーを自分と比較して、メンバーができないことを不満に思う。メンバーを「欠くことのないパートナー」として接することは「効果的」ではあるが、メンバー全員に対してしなければならないというわけでもない。まずは、ITマネージャーの気持ちの中で無理のない範囲から始め、徐々にそう思えるメンバーを増やしてはどうだろうか。

 「関係の質」が高まると、メンバーは自分から課題に気づくようになり、仕事を面白いと感じる(「思考の質」の向上)。すると、自発的に行動するようになる(「行動の質」の向上)。その結果として、成果が上がり(「結果の質」の向上)、さらに信頼関係が高まる(「関係の質」のさらなる向上)。

 「結果の質」を高めるのに、まずは「関係の質」を高めるという方法は「遠回り」するように感じるかもしれない。しかし、メンバーとの「関係の質」を高めないまま「結果の質」を高めようとしても、「笛吹けど踊らず」と空回りするばかりだ。

 「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という二宮尊徳の言葉を本稿の最後に紹介したい。次回は「関係の質」を高めるために、ITマネージャーとして具体的に取り組むべき行動について解説する。

執筆者プロフィール

青木裕(あおき ゆう)、ビジネスコーチ株式会社執行役員 ビジネスコーチ アジア 取締役。SIerにてプロジェクト運営にコーチングを導入。常駐先で運営手法が評価を得て、コーチング研修を実施。2006年、ビジネスコーチ株式会社に参画。2010年より現職。本連載記事を再編集した電子書籍「成功するITマネージャーの『人づきあい術』」が主要電子書店で入手可能です。


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