東北で導入が進む自治体クラウドのこれからクラウド ビフォア・アフター(2/3 ページ)

» 2012年09月27日 12時00分 公開
[林雅之,ITmedia]

2011年:自治体クラウド全国展開に向けて

 総務省は2011年度から、自治体クラウドの本格的な全国展開に向けての施策を展開している。共同化計画などの経費や住民データのクラウドへの移行に関わるデータ移行経費には特別交付税を措置している。

 2011年7月には「自治体クラウドの円滑なデータ移行等に関する研究会」を開催し、住民基本台帳など22の自治体業務システムのデータ移行時に共通で利用できる中間標準レイアウトを作成した。総務省は、中間標準レイアウトの普及により移行作業が明確になり、86%のコスト削減が期待できると算出している。

 各自治体は住基ネット統一文字や戸籍統一文字など「外字」と呼ばれる独自の文字を管理しており、その文字数は述べ200万文字とされている。これらには各自治体で独自に文字コードを割り当てているため、データ移行時にそのまま移行できずに膨大な作業が発生している。総務省はこれらの実態を調査するとともに、行政機関が適正に対処するための利用ガイドの整備も検討している。

 さらに総務省は、2012年5月17日に「自治体クラウド推進事業(団体間の業務データ連携に係る検討・実証)成果報告書」を公表し、自治体クラウド間での円滑な業務データ連携する環境整備のため、連携データ項目や連携機能・方式などの検証を実施した。2012年5月25日には「自治体クラウドにおける住民サービス向上のためのアクセス・認証方式等に関する調査研究報告書」を公表し、自治体クラウド間の相互運用性確保に向けた認証方式などの調査を実施している。

自治体クラウド導入が加速している東北被災地

 東日本大震災後、自治体クラウド導入の重要性が高まっている。津波による被害で多くの公共施設が流失、破壊され、住民生活に関わる多くの基本データが失われ、本人性の確認や被災者の安否や所在の確認が困難となり、行政手続を進める上で支障が生じたからだ。

 宮城県南三陸町の役場は建物が全壊して庁舎全体が津波で水没し、住民関連データを格納したサーバが流され、電子化された戸籍の原本データが消失した。紙で保管していた土地台帳なども津波で流され、行政手続が困難となるという事態が生じた。

 宮城県の女川町や岩手県大槌町などの3市町でも住民基本台帳サーバなどのハードが破損しデータが消失するなど、被災各地の自治体で情報システムの破壊や停止などの大きな被害を受けた。

 戸籍データは、地方法務局で保管していた戸籍副本をベースに復元できたものの、個人情報保護など制度上の障壁もあり復元するまでに相当の時間を要した。紙台帳のデジタル化やデータによる安全な保管など、災害時の業務継続や行政機能を早期に回復するための行政情報システムの見直しの必要性が浮き彫りとなった。

 こういった状況をふまえ、政府は震災後に「復興への提言(2011.25 復興構想会議)」、「情報通信審議会中間答申(2011.7.25 情報通信審議会)」、「東日本大震災からの復興の基本方針(2011.7.28)」、「日本再生の基本戦略(2011.12.24)」など、自治体クラウドをはじめとした公共分野におけるクラウドの導入を早期に進める必要性を示している。

 総務省は2012年度から、東日本大震災で被災した11道県227市町村を対象として行政、医療、環境、防災などICT(情報通信技術)の利活用による被災地域の震災復興対策「被災地域情報化推進事業(情報通技術利活用事業費補助金)」の交付を決定している。

 諸経費の3分の1を補助する支援措置を行い、地方負担額の3分の2は、震災復興特別交付税で全額措置する。本事業では「自治体クラウドの導入事業」も柱となり、2012年4月13日(第1回)、8月20日(第4回)で19事業21団体(交付決定の事業費:19.3億円)への交付が決定している。

市町村
岩手県 釜石市、大槌町・普代村・野田村
宮城県 七ヶ浜町、色麻町、涌谷町、山元町
福島県 須賀川市、会津若松市、古殿町、小野町、葛尾村、
茨城県 葛尾村、大子町、大洗町、美浦村
千葉県 松戸市、浦安市、白子町
長野県 栄村
自治体クラウド導入事業の交付決定団体(2012年8月20日現在)

 次ページでは、導入の交付が決定した自治体の取り組みを中心に紹介する。

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