東北で導入が進む自治体クラウドのこれからクラウド ビフォア・アフター(3/3 ページ)

» 2012年09月27日 12時00分 公開
[林雅之,ITmedia]
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岩手県大槌町・普代村・野田村

 岩手県大槌町・普代村・野田村は3町村共同で、自治体クラウドへの導入計画を進めている。岩手県は2011年4月より、県内の沿岸市町村が中心となって「岩手県沿岸市町村復興期成同盟会」を発足し、陸前高田市、大船渡市、釜石市、大槌町、宮古市、普代村、野田村など13自治体が参加している。

 2011年12月には復興に向けて、ICTを活用した街づくりや自治体クラウド導入の課題と地域連携のあり方などを検討するために「ICTまちづくりワーキンググループ(WG)」を設置し、事務局は大槌町復興局情報化推進室が担当している。大槌町では2011年11月に総務省から出向した職員が、情報化推進室長として業務を行っている。

 ICTまちづくりWGは、2011年12月と2012年1月に会合を実施し、被災地域情報化推進事業に関する説明や自治体クラウド導入のあり方、自治体クラウド導入事業の参加に向けた検討を行い、最終的に大槌町・普代村・野田村の3団体が申請を行い、2012年4月13日に交付が決定した。

 大槌町・普代村・野田村は、2012年4月25日に「自治体クラウド構築に関する情報提供依頼(RFI)、2012年8月13日には「自治体クラウド構築に関する提案依頼(RFP)」を公開し、2012年10月にベンダを決定する予定だ。基幹系となる住民情報・税・福祉・保険/年金などや、内部系情報システムの財務会計・人事給与などをクラウドへ移行し、2013年4月からの本番運用を計画している。

 自治体クラウドの導入には首長のリーダーシップも重要である。大槌町長の碇川豊氏は、河北新報の取材で「岩手沿岸の被災自治体で自治体クラウドを導入すれば、無駄を省けるだけでなく、さまざまな連携を図る契機にもなる。(中略)被災地を1つの広域圏とみなし、職員の交流も活性化できるし、人口減に歯止めをかける施策も広域圏で取り組める。合併と同じような効果が得られる、いわば『ネット合併』だ」とコメントしている。

 大槌町はWebサイトの構築にRubyによるオープンソースのCMS(コンテンツマネジメントシステム)を使ったクラウドサービスを利用するなど、先進的な取り組みも進めている。

 3町村での自治体クラウド導入を機に、各市町村への展開が期待される。

釜石市

 岩手県釜石市は1992年に大雨洪水を経験した経験から庁内で最も安全な場所にサーバ室を移設していたため、震災でのサーバの被害はなく、電源が復旧した3月20日には稼働再開した。

 釜石市も「岩手県沿岸市町村復興期成同盟会」に参加し、ICTまちづくりWGを通じて自治体クラウドの導入事業に申請し、交付が決定している。基幹系行政システムの更改時期を2012年12月に迎えること、復興に携わる職員の負担軽減、BCP(事業継続)などを考慮し、自治体クラウドの導入を決めたという。内部系行政システムはリプレースの期間が残っているため、庁内に残す。

 釜石市は、遠隔地の自治体にデータをバックアップして二重の安全対策を講じるなど、全国の自治体の中でも珍しい取り組みも行う予定だ。2012年5月25日に若崎正光副市長が北九州市を訪問して北九州地区電子自治体推進協議会の総会へ出席し、釜石市の住民基本台帳などのバックアップデータを北九州が受け入れることが承諾されている。

 釜石市と北九州市は新日鉄の工場がある「鉄のまち」としての交流があり、北九州市が震災後に職員を釜石市に派遣するなどの支援を行っている。今回の自治体クラウド間のデータバックアップの話は、このようなつながりから生まれている。

被災地における自治体クラウドのこれから

 被災地における自治体クラウドの導入には、さまざまな課題がある。データ移行などに費用がかかり、導入の時点でコスト削減効果が見えにくい。また、導入を推進するためのIT人材の人的リソースも課題となっている。

 岩手県の沿岸部のICTまちづくりWGでは13団体が参加し自治体クラウドの導入検討を進めたが、導入事業に申請し交付が決定したのは、大槌町・普代村・野田村、そして釜石市の4団体のみとなっている。

 自治体クラウド推進に当たっては、政府や自治体による標準化されたパッケージ化の推進によるコスト削減や業務効率化とともに、現場のシステムの状況を把握し、自治体クラウドを推進できるIT人材の確保や育成、市町村連携を進めるためのさらなる理解と体制づくりが重要となるだろう。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員、一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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