求められる都市マネジメントの発想松岡功のThink Management

今回は、最近発表された2つの調査レポートから、都市のマネジメントについて考察したい。

» 2012年10月25日 08時30分 公開
[松岡功,ITmedia]

PwCが世界主要都市の「都市力」を調査

 プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が10月18日、米国 Partnership for New York Cityと共同で、「Cities of Opportunity— 世界の都市力比較 2012」と題した年次の調査レポートを発表した。

 このレポートでは、世界の産業・金融・文化の中心となる主要27都市について、都市を活性化する主要素(いわゆる都市力)を、2011年および2012年に収集したデータをもとに10の領域および60の変数を用いて分析し、それぞれランキングを公表している。

 それによると、東京の総合評価は、昨年から4ランク上昇して27都市中10位となった。アジアの都市の中では、シンガポール、香港に次ぐ3位の位置につけている(表1参照)。

表1世界27都市の総合ランキング上位10都市(出所:PwCの調査レポート「Cities of Opportunity— 世界の都市力比較 2012」) 表1世界27都市の総合ランキング上位10都市(出所:PwCの調査レポート「Cities of Opportunity— 世界の都市力比較 2012」)

 東京の都市力を10の領域でみると、「交通・インフラ」(4位)および「テクノロジーの水準」(6位タイ)で高い評価を得ている。さらに、「都市の国際性」、「ビジネスのしやすさ」、「知的資本・イノベーション」、「経済的影響力」の4領域においても、トップ10入りを果たしている(表2参照)。

 また、60の変数をみると、「ソフトウェア開発とマルチメディアデザイン」「医療システム(寿命に対する医療の寄与)」「世界トップ500企業の本社数」「破綻処理体制」において、1位を獲得している。

 一方、「産業・生活のコスト」の領域は、昨年の21位からランクを落として最下位である27位となり、ビジネスおよび生活におけるコストが改善されていないことが浮き彫りになった。「持続可能性と自然環境」の領域も19位タイと下位。その中の変数である「自然災害のリスク」は、昨年に引き続き今年も最下位となっており、総合評価に影響を与えている。

 同レポートにおいて全27都市の総合評価をみると、全領域においてバランスのとれた評価を受けたニューヨークが1位を獲得した。続いて、ロンドンがニューヨークに僅差で2位(昨年6位)、パリが4位(同8位)となっている。

 ロンドンとパリが昨年よりランクアップした背景の1つとして、今年より調査として新しく設定された「都市の国際性」の領域において、それぞれ1位、2位と高い評価を得ていることが挙げられるとしている。

 また、昨年に引き続き、生活の質やサステナビリティにおいて評価が高いトロント、ストックホルム、サンフランシスコがそれぞれ3位、5位、6位にランクインしている。

 表2 各分析領域上位3位までの都市および東京の順位(出所:PwCの調査レポート「Cities of Opportunity— 世界の都市力比較 2012」) 表2 各分析領域上位3位までの都市および東京の順位(出所:PwCの調査レポート「Cities of Opportunity— 世界の都市力比較 2012」)

都市力アップへ注目されるスマートシティ

 総合評価ではトップ10入りしていないが、今年は新興都市である北京と上海が「経済的影響力」および「都市の国際性」の領域において、トップ5にランクインした。この結果は、経済発展や人口増加に伴い、新たな事業ニーズや海外からの投資が増えていることなどが背景として考えられるという。今後、これらの都市がさらに競争力を高めるためには、経済力や国際性だけではなく、人々の生活の質や暮らしやすさなど社会的領域における発展が必要だとしている。

 こうした調査結果から、PwCの官民パートナーシップ・インフラ部門アジア太平洋地区代表を務める野田由美子パートナーは、次のように語っている。

 「今回の調査結果から、東京は『交通・インフラとテクノロジーに優位性を持つ一方で、災害リスクが高く、コストも含めたビジネス環境においては依然改善の余地が大きい』という都市の姿が改めて浮き彫りになった。総合評価では10位に入ったものの、アジアにおいてはシンガポール、香港の後塵を拝している。シンガポールでは都市の魅力を高めることを国家戦略の中核に置き、そのノウハウを海外にも積極的に輸出している。東京という一都市に留まらず日本全体の課題としてとらえ、さらなる競争力の強化策を講じる必要があるのではないか」

 こうしてみると、都市力というのは、それぞれの都市のマネジメント力と言い換えることもできるだろう。マネジメントの観点からみても、このレポートの調査結果は非常に興味深い。

 では、この都市力あるいは都市のマネジメント力を向上させるためには、どんな手立てがあるのか。そのソリューションの1つとして注目されているのが、スマートシティへの取り組みである。スマートシティとは、ITを活用し、電力やガスなどのエネルギー、水、交通などの社会インフラを効率的に運用する環境配慮型の都市のことだ。

 日経BPクリーンテック研究所が先頃発表したスマートシティ関連サービスの市場調査によると、スマートシティで提供される各種サービスの世界全体の市場規模は、2030年に120兆円に達し、2030年までの累積で約1000兆円になると見込まれる。

 日本市場の累計額は、2015年に世界全体の約8.5%を占め、その後2020年が同7.1%、2025年は同6.3%となり、2030年では同5.8%の約58兆円になる見通しだ。新サービスは先進国で始まった後、次第に新興国へ広がるが、それに伴って世界に占める日本市場の比率は低下するという。

 スマートシティ関連サービスとは、環境に配慮しながらも成長を続けるスマートシティにおける市民の暮らしや企業活動を支えるための各種サービスのことだ。エネルギー利用の最適化、行政サービスの民営化、ホームオートメーションなど家庭のQOL(生活の質)向上、医療・健康が、大きな柱になるとしている。

 スマートシティやスマートコミュニティのプロジェクトでは現在、数々の新サービスが考案され、そのビジネスモデルが検証されている。今回の市場予測では、これら240のサービス関連プロジェクトを調査し、それらを36項目に分類し、それぞれの市場規模を算出し、積算したという。

 こうしてみると、今後はスマートシティへの取り組みが都市力アップの決め手になるのは間違いなさそうだ。そこに必要なのは、都市をマネジメントするという発想である。

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