成長の鍵を握る富士通のマーケティング部門(最終回)田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年11月15日 14時30分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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マーケティング機能の集約

 そうは言っても、富士通を取り巻く環境は大きく変化している。佐相副社長は「IT市場は以前のような大きな成長を見込めない。(市場やユーザーを)どう深堀するのか、どう新興国を開拓するのか、が課題だ」という。そのためにも、新しい市場を創出し、新しい顧客を開拓することが重要になる。

 2012年4月にマーケティング組織を再編し、各ビジネスユニットにあった販売推進や商品企画などのマーケティング機能を集約したのは、そのためだ。プラットフォーム商品(ハードやソフト)、サービス商品(クラウドなど)、新事業を軸にした商品などでくくり、山本社長が考える世の中に先行した技術、サービスを創り出する。「年内に、どんなポートフォリオが最適なのか、そのイメージを作成する」(佐相副社長)。

 それに向けて、まずは今の商品やサービスの位置付けをはっきりさせる。異なる部署が同じようなサービスを提案することも避けられる。例えば、群馬・館林など複数拠点や子会社がデータセンターで提供するクラウドサービスの違いを分かりやすくする。

 こうして商品戦略の方向性を明確にする。チャネル戦略やマーケティング戦略も統一する。一例は、商品と密接な関係にあるブランドや宣伝、社内コミュニケーションの基盤などだ。ばらばらだった海外拠点による商品のWebコンテンツもそうだ。売り上げや利益を関係するビジネスユニットにどのように配分するかも大きな問題になる。人事制度に踏み込むことも必要になるかもしれない。

 方向性がはっきりすると、それに反対する勢力が出てくる可能性がある。佐相副社長は「『右だ』『左だ』と強権発動はしない。言うことを聞かなかったら首にする、とも言わない」と、柔軟な姿勢で対応する考えだ。「会社の戦略や方向性をビジネスユニットの社員が納得できるよう丁寧に説明する」(同)。

 佐相副社長は「日本企業は欧米企業と異なり、下からの積み上げ、それとトップダウンのビジョンを加えた両輪になる」と理由を説明する。確実に、社内に経営ビジョンを浸透させることが大切なのだ。


一期一会

 2009年に野副州旦社長(当時)はHDD事業の売却を決め、次にパソコンや携帯電話の売却も視野に入っていたようだった。当時、携帯担当の執行役員だった佐相副社長はその話を聞いて、野副社長に怒鳴り込んだという。「『携帯やパソコンはいらない』という人がいるが、ユビキタスの活用を考えれば必ず必要になる。セールスフォースのような提案にも欠かせないものだ」。米IBMとの差別化を図れる材料にもなる。

 問題は、新市場をどう創出するかだ。各々のビジネスユニットの成長が富士通全体の業績を伸ばすことにつながっていたので、「統一したマネジメントをしなくても、うまくいっていた」(佐相副社長)。それが難しい状況になっている。商品が複雑化し、複数の部署が関係するようになり、1つのマネジメントの下で対応するのも困難になりつつある。垂直統合の商品はその典型だ。

 解決するには、マーケティング部門がそうした先進的な商品やサービスの開発をリードすること。関係する部署を束ねて、開発から販売までの新しい体制も築く。その一方で、佐相副社長はいくつかの指示を出した。一つが各業種別組織に10個以上のソリューション商品を開発すること。しかも、「アクティブにやる」(同)。そこから新しい市場を創り出していくことを考えているのだろう。そのためには、50人超の執行役員が先頭に立って模範を示すことだ。

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