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» 2012年12月05日 08時00分 UPDATE

成功するITマネージャーの「人づきあい術」:【最終回】プロジェクトメンバーに自信を与える「承認の文化」のつくり方

ITの仕事は、その性質からどうしても評価される機会が少ない。プロジェクトをより良いものとしていくために、メンバーの自信を高める「承認」について解説したい。

[青木裕,ITmedia]

 前回は相互理解を深める価値観について解説した。今回は「承認の文化をつくる」というテーマについて解説する。

 筆者は今のビジネスコーチという職業についてから、多くのITエンジニアの方と接して気がついたことがある。第10回目のコラムでも少し触れたが、ITの開発や保守、運用という業務は、その性質から褒められたり、感謝されたりすることが極端に少ないということだ。

 新規開発であれば要件を満たす、保守運用であれば安定稼働するという正解がある仕事とみなされている。正解がある以上は、100点満点を取ることが当たり前に求められるのである。仮に99点であっても、1点が足りなければ関係各署から叱られる。実際には99点を取るにもかなりの努力がいるが、その努力が労われることはあまりない。

 しかし、努力していることやできていることを承認してほしいと思ったところで、環境は変えられない。仕事は成果が全てである。ITマネージャーとしてできることは、自分が関わるメンバーには、努力のプロセスへの「承認」を意図的に増やすことである。なお、承認のテクニックについては、第10回目で詳しく解説したので参考にしてほしい。

承認するためにはメンバーの「観察」が必要

 メンバーを承認するためには、メンバーを日ごろからよく観察しておく必要がある。なぜなら、承認するためにはちょっとした変化に気づいたり、褒めたり、叱ったりするための材料が必要だからである。社内会議への出席、顧客訪問、プレイングマネージャーであれば自分自身の業務など押し寄せるタスクをこなす合間に、複数いるメンバーに気を配らなければならないが、そのためには自分自身に多少の余裕がなければ難しい。

 ここは一つ発想を変えて、「褒めてほしい」「承認してほしい」ポイントをメンバーの方から教えてもらってみてはどうだろうか。

コミュニケーションをうながす「グッドジョブシート」

 グッドジョブシートは、例えるならFacebookやmixiなどのSNSで友人の誕生日を事前に知らせてもらうようなものだ。誕生日であることを知ったユーザーは、知人に「お誕生日おめでとう」とコメントを出すだろう。グッドジョブシートも同じように、メンバーから褒めてほしいポイントを教えてもらい、ITマネージャーからコミュニケーションを取るというものである。

 グッドジョブシートは次の5つの質問で構成される。まずはメンバーとやる前に、ご自身で体験してみてほしい。ここ1週間の仕事を振り返って、次の質問の答えを紙に書き出してみよう。設問に答える時間は90秒×5問、計7分30秒である。

グッドジョブシート

  1. うまくいったことは何か?
  2. うまくいった要因は何か?
  3. うまくいかなかったことは何か?
  4. うまくいかなかった原因は何か?
  5. 次の一手は何か?

 上記の質問に対する答えを書いてみて、どんなことに気づいただろうか?

 あるセミナーに参加された方が、「こんな簡単な質問に答えるだけで、本質的な課題にたどり着くことができ、驚いた」と話された。とにかく質問は簡単である。ただ、奥は深い。 個人で質問に答えるメリットには、次のようなものがある。

  • 自分の行動を振り返ることができる
  • 自分のゴールが明確になる
  • 問題発見能力が高まる
  • 「次の一手」を考える習慣が身につく

 この5つの質問をプロジェクト内全員で記入し、共有するのがグッドジョブシートの運用方法である。

 大まかな流れは次のようになる。

  1. グッドジョブシートをメンバー全員で記入し、共有する
  2. メンバーのシートを見て、ITマネージャーができていることを承認する

 1のグッドジョブシートを記入して共有する方法には、大別すると2つのやり方がある。

  1. メールで共有する
  2. 会議で共有する

 1つ目は週報のようなイメージだ。金曜日や週末など、業務が終わったタイミングでメンバー全員にメールで共有するという方法である。手軽だが、いきなりメールで書いたものを共有しましょうと伝えても、メンバーは戸惑ってしまうかもしれないので、2つ目の会議で共有する方法で始めるのがオススメだ。時間を30分と決めて実施すると、メンバーも比較的抵抗なく参加する。

 会議ではグッドジョブシートを全員に配り、7分30秒(90秒×5問)で記入することから開始する。書いた内容を一人ずつ順番に読み上げることで、時間を節約しながら共有できる。ITマネージャーは特に、1と2の質問に対する回答について注意深く聞き、深く堀下げるように質問をしたり、褒めたりしてほしい。

 うまくいかなかった内容を叱ることは止めていただきたい。叱られるためにシートを出したとメンバーに思われたら、本末転倒である。どうしたらうまくいくのか、と言う視点で情報を共有してほしい。

 進捗会議などにアジェンダとして追加することもできるし、新しい会議体として実施しても良い。運用は業務に応じて工夫できると思う。

 もし、「褒められるレベルの仕事ではないな」と思うようなことがあれば、「書いてくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えたり、「他にどんなことがあったのかな?」「他のメンバーのシートを見てどんなことを学んだ?」と聞いてみると良い。

 グッドジョブシートは、コミュニケーションのきっかけを提供する道具である。道具を使って、メンバーとどのような会話や対話をするのかはITマネージャーの自由である。ぜひ承認するきっかけとしていただき、メンバーに自信を与えてあげてほしい。メンバーの中から、一皮向ける人材が出てくるのではないかと期待している。

 グッドジョブシートを使ってみたい方は、以下をダウンロードして参考にしていただければと思う。

yaok001.gif (クリックで拡大します)

 グッドジョブシートは、本連載のテーマである『成功するITマネージャーの「人づきあい術」』を現場に根付かせていくために使う肝となるツールだ。。とにかく試し続けてほしい。


 本連載は今回が最終回である。できるだけ業務開始前や電車通勤などの合間にさっと読み終えられるよう、ポイントを絞って書いたつもりだが、お役に立っただろうか。これまでの内容を行動に移していただき、部下や上司との関係が変わってプロジェクト運営がうまくいったという効果を得ていただければ幸いだ。

 途中回から読んでいただいた方には、ぜひ最初から読んでみてほしい。1回目から順を追って実践していただくと、「人間関係」がうまく構築できる(もしくは構築しなおせる)ようにしている。固定化されたメンバーで仕事をすることになりやすいITプロジェクトにおいて、人間関係を構築しなおすための行動を取るのは、とても勇気が要ることだ。ただ、もし今の人間関係の中でプロジェクトがうまく回っていないのであれば、ITマネージャー自らが変わる以外、打開策はない。本連載がITマネージャーの読者の飛躍となるきっかけになれば、筆者としてはこの上ない喜びである。

執筆者プロフィール

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青木裕(あおき ゆう)、ビジネスコーチ株式会社執行役員 ビジネスコーチ アジア 取締役。SIerにてプロジェクト運営にコーチングを導入。常駐先で運営手法が評価を得て、コーチング研修を実施。2006年、ビジネスコーチ株式会社に参画。2010年より現職。本連載記事を再編集した電子書籍「成功するITマネージャーの『人づきあい術』」が主要電子書店で入手可能です。


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