「これは国で統一すべきでは?」と感じた2012年の事件“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(2/2 ページ)

» 2013年01月18日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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昨年発生した事件

 報道によれば、2012年9月に飛行中の航空機内で客室乗務員のスカートの中を盗撮したという男が、兵庫県迷惑防止条例違反容疑で警視庁東京空港署に逮捕された。男は容疑を認めたとのことだ。だが、その後に処分保留で釈放されたという。盗撮行為は各都道府県の条例で罰せられるが、検察側は盗撮が行われた時にどの地域を飛行していたのかを特定できないとして、判断したもようだという。

 市民感覚からすると、盗撮した事実があり本人も認めているにも関わらず、なぜ釈放されるのか理解に苦しむ。筆者もそう感じた。「盗撮に使われたデジタルカメラの撮影時刻で場所を特定できるはずでは?」「どの都道府県にも条例があり、いずれかには抵触するので有罪に持ち込めないのか?」と法律の専門家に聞いてみたが、いずれも「素人だね」と切り捨てられてしまった。

法律の盲点

 いったい何がいけなかったのか。戦後の間もない頃にできた迷惑防止条例は、「ぐれん隊防止条例」とも呼ばれた(今では「ぐれん隊」という用語も聞きなれない用語だが)。社会的に粗暴とされる行為に対する防御策であったということだ。だから当初は、人が集まり問題を起こしやすい大都市や東京にしかなかった。それがだんだんと拡大解釈されて、盗撮も防止することになった。盗撮はどこでも起こり得るので日本全国に広まっていった。それが、この「迷惑防止条例」である。

 盗撮行為に対して、最初の頃は例えば、「盗撮禁止法」という法律にして取り締まるほどではないものの、処罰規定を設けて対策しなければ、都道府県の住民が不利益を被ってしまうと考えられていたのではないだろうか。だから、当初は「条例」でも良かったのだと思われる。

 時代の流れで拡大解釈されていった迷惑防止条例の中には、明確に「盗撮」という名称が付かないものも多い。また、処罰規定も「1年以内の懲役」や「6カ月以内の懲役」など、捕まった場所によって変化する。条例も立派な「法」であるだけに、せめて処罰規定の内容は場所を問わず共通化するとか、「盗撮」を明示的にするようにすべきではないだろうか。

 「法律の素人が何を言うのか」という人もいるかもしれないが、こうした違和感は素人であっても誰もが抱くものだろう。検察も現状を踏まえて今後どうすれば卑劣な被疑者を告訴できるのかについて、早急にその対応策を提示してほしいと思う。

 現在の条例の適用には、発生場所を特定できることが前提条件となってしまうらしい。筆者は法律について詳しくないが、これは法律の「欠点」ではないかと感じてならない。法律はあくまで現状を追認するものだ。だから、制定当時に想定していない事象が出てくると、途端に法律はその弱点をさらけ出す。

 情報セキュリティでも当然ながら法律を順守するが、防衛策は常にフレキシブルでなければ良い策にはならない。良い対策とは、今の問題に対応するということに加え、将来予見し得る全ての対応策もできる限り費用対効果を見定めながら対策を施すというものだ。そうでないと「悪い対策」になりかねない。法律や条例にもこうしたアプローチが大切ではないだろうかと感じてしまうのだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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