――ビッグデータは「大量のデータ」という一面もありますが、それは本質ではないように思います。多種多様なデータを扱わないと企業成長につながらないように感じられます。
保坂氏 わたしはビッグデータには3通りあると考えています。1つ目は、自動車の衝突事故の防止を目的とするような“今その瞬間”のデータ活用です。もう1つは、特定の個人やモノから発生するデータを継続的に集めて分析するもの。そして最後は、特定の個人やモノに注目したデータを複数集め、横断的に分析するというものです。
1つ目はこれだけではビッグデータとまで言えないかもしれません。しかし、特定の人物や自動車に対して長期的に注目することで、その人の運転の特徴や、自動車の部品交換の時期なども見えてきます。
さらに、個人やモノに注目した分析データが集まれば、より多数のデータを組み合わせて分析できます。自動車の例で言えば、多くのドライバーが共通してブレーキを踏む場所を特定し、社会的に役立つ分析結果を得られる可能性もあるのです。こうした考え方に基づき、社内では「データを3段活用しろ」と呼びかけています。
――ビッグデータ事業の強化に向け、社内ではどのように人材育成に取り組んでいますか。
保坂氏 現在は分析をしっかりできる人を増やそうということで、全社的に「分析エキスパート」の育成に注力しています。座学から始め、その後、ユーザー環境の実データを分析する実践教育にも取り組んでいます。
ビッグデータ関連の人材育成のポイントは、単に統計学ができればいいわけではないということです。データから新しい価値を見出す必要があるので、業務経験に由来する「引き出し」をどれだけ増やせるかが重要です。
社内では、分析のエキスパートだけでなく、特定の産業分野に精通した「ドメインエキスパート」の育成について議論しています。例えば、自動車業界のデータを分析する際には、自動車に詳しい専門スタッフがいるかどうかで、導き出せる分析結果も変わるはずです。2013年は、こうした各ドメインに通ずる専門家の育成にも注力します。
これらの取り組みができるのは、昨年7月にスタートした「ビッグデータディスカバリープログラム」(企業のビッグデータ活用を支援するコンサルティングサービス)への引き合いが多いからです。製造業や流通業、官公庁などから100件以上の相談がありました。今後は、経験から生まれるノウハウの蓄積と共有化を図り、できるだけ「安く早く」使えるビッグデータソリューションを広めていきます。
――保坂執行役員にとって、他社や他の人に“負けない力”を教えてください。
保坂氏 実は昨年の秋、出身高校のイベントに運営ボランティアとして参加しました。それは、高校生が約105キロの道のりを一晩かけて歩くというものです。
今の私には、そんな長い距離を歩くことはとても無理です。しかし高校生たちは見事にやり遂げます。当日は雨が降っており、冷え込んでいましたが、彼らは学年を超えて励まし合い、ペースを維持して歩いていました。「やり遂げること」に対する彼らの思いがひしひしと伝わり、思わず熱いものがこみあげました。
社長の遠藤(信博氏)のトップメッセージにもありましたが、「やろう」という強い意志があれば「これは無理だ」ということも実現できるのだと、母校の伝統行事に参加することで確信しました。その気持ちを胸に、ビッグデータ事業に注力していきます。
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