JNSAの緊急報告会でも議題になっていたが、要するに「犯人とされた方々は、本当に何の責任もなく、100%被害者なのか?」ということである。この方々に軽率な行動が無かったら、こういうこと(誤認逮捕)にはならなかった――という理屈である。今でも出所不明のプログラムを何も警戒せずに動かしてしまう方々が世間の一部にいるという事実だ。
日本の法律には「不作為の罪」というものは存在しない。今回の事件に関する警察の報告書には、犯人扱いされた方々を鑑みてその種の行為を直接言及しているものはない。しかしセキュリティ専門家として、サイバー攻撃などの性質をみるに、全く無批判でいることは本意ではない。警察側の問題とは別に、なぜ4人の方々が誤認逮捕されてしまう結果になったのか。同時に世間の方々も、自分の身を自分で守るよう努力していただきたいのである。決して警察を擁護するとか、軽蔑するとかいうものではない。
事実ほど重いものはない。今回の事件は私たち一般市民にとっても、また、警察関係者にとっても深く考えさせられるものだと感じている。「誰が悪い」「誰のせいだ」と批判するは自由だが(前項の警察の問題点は軽視できないが)、まずはその事実を受け止め、世の中にとってバランスの良い解決策を皆で考えてほしいのである。
この事件が後にサイバー犯罪捜査のトップ集団の体制を構築し、都道府県レベルではなく日本全体で取り扱うようになり、その後は誤認逮捕が無くなったと、言われるようになれば幸いではないだろうか。「災い転じて福となす」、そう信じたいと心から感じている。
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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